映画「カティンの森」

先日の金曜日の夜にNHKのBSプレミアムで放送され、録画をしておいた映画「カティンの森」を見ました。夜の11時45分頃から放送されていた2時間ほどの映画です。

「カティン(カチン)の森事件」というポーランド将校たちが虐殺されてしまった事件について、私は以前(この映画の公開される頃だったのかもしれません)NHKのドキュメンタリー番組で見たことのあるくらいで、少ししか知りません。それでも、この映画のことは気になっていたので、今回放送されると知って、怖いかもしれないと思いつつ、見てみたいと思っていました。

映画の原作は、アンジェイ・ムラルチクさんの『死後 カティン(邦題・カティンの森)』だそうです。脚本は、監督のアンジェイ・ワイダさん、ヴワディスワフ・パシコフスキさん、プシェムィスワフ・ノヴァコフスキさんで、撮影はパヴェウ・エデルマンさん、音楽はクシシュトフ・ペンデレツキさんでした。

2007年にポーランドで作られ、日本では2009年に公開された映画です。アンジェイ・ワイダ監督の父親も、ポーランドの将校としてカティンの森での虐殺された犠牲者なのだそうです。

映画のタイトルは「カティンの森」でしたが、映画の中の字幕では「カチンの森」と翻訳されていました。どちらの読み方でも正しいのかもしれません。

映画で描かれてたそのカティンの森の事件は、1939年の9月17日、ドイツ軍と戦っていたポーランドに不可侵条約を破って侵攻してきたソ連赤軍が、1940年の4月に、ポーランド軍の将校たち約1万2千人をスモレンスクという場所に近いカティン(カチン)の森の奥へ連行し、後頭部を銃で撃って殺害した後、遺体をあらかじめ地面に掘っておいた一つの大きな穴に落とし入れて埋め、1943年頃にその墓を暴いて遺体を表に出し、1945年頃になってドイツの敗北が決定的になると、カチンの森で将校たちを虐殺した罪を、ナチス・ドイツが1941年の秋に行った罪としてポーランドの市民たちに公表した、というものでした。

映画の物語は、主に、赤十字に加盟していなかったソ連軍の捕虜となってからの出来事を手帳に書き記すことにしたアンジェイ大尉(アルトゥル・ジミイェフスキさん)と、遠く故郷のクラクフから娘のニカ(本当の名前はヴェロニカのようでした)を連れて夫のアンジェイ大尉を探しに来た妻のアンナ(マヤ・オスタシェフスカさん)の視点で描かれていたのだと思うのですが、アンジェイ大尉の大学教授の父親、アンジェイ大尉の帰還を待つ母親、アンジェイ大尉にセーターを貸していた友人のイェジ中尉(後にソ連軍の証人となって少佐に昇格していました)、カチンの森で殺された大将の夫人や中尉の妹、美術学校への入学を希望していたアンナさんの高校生の甥など、ソ連軍に殺されたという「真実」を知っていてそれを主張したことで、ソ連軍やソ連軍に抵抗できないポーランド政府の下で追いつめられていった人たちなどの視点でも描かれていました。

ところどころに白黒の映像が流れていたのですが、それは当時の実際の、クラクフの町やカチンの森の映像なのでしょうか。

ソ連軍の証人となったことを恥じて拳銃で頭を撃ち抜いて自殺をしてしまったイェジ少佐は、1943年頃からドイツの指示でソ連軍の犯罪の証拠を集めているという大学の研究所の恩師に「証拠」を「遺品」としてアンジェイ大尉の遺族に渡してほしいと頼んでいたのですが、最後は、研究所の職員の女性から夫の遺品の手帳を受け取ったアンナさんが、手帳を読んで夫がカチンの森で殺されたという事実を改めて受け止めるという場面でした。

アンジェイ大尉の遺品の汚れていた手帳には、1940年の4月9日の頃までは何かが記されていたのですが、殺された日の4月10日以降は白紙のままでした。

収容所でソ連軍に名前を呼ばれた時、助かるものと思っていたらしい十数人の将校たちの中には、少し嬉しそうに支度をしている人もいたのですが、メモを取っていたアンジェイ大尉は移送中の汽車の壁に先の犠牲者が彫ったらしい行き先を見て戸惑っていました。

赤い星の看板の掲げられた汽車が寒そうな雪の駅に到着すると、将校たちは今度は別の車に乗せられて、森の奥へ運ばれていきました。ある建物の前でベルトやナイフや時計などを置いていくよう命じられたポーランドの将校たちが狭い通路を歩いて中へ入ると、床や壁にまだそれほど時間の経っていない血の痕を見つけて愕然とするのですが、もう逃げることができないまま、スターリンの肖像画のある部屋から隣の部屋へ歩かされて、壁の血飛沫を見て震える間もなく後頭部を狙撃され、頭から血を流した遺体はすぐに滑り台の付いたダストボックスのような小さな穴から外で待っているトラックの荷台に積まれて、カチンの森の奥に掘られた大きな穴へ落とされていました。

友人のセーターを着ていたアンジェイ大尉は、その穴のすぐ前で車から降ろされ、神への祈りの言葉を口にしているそばから後頭部を撃たれて殺され、土の中へ落とされていました。そうして次々と落とされた遺体の上に車で土がかけられるというところで、映画の物語は終わっていたのですが、画面が真っ暗になり、キリスト教音楽の聖歌のような歌が少し流れた後は、黒い背景の無音のエンドロールとなっていました。

戦争時代のことを描いているので、それだけでもどうしても陰鬱というか、全体的に暗くて重い印象の映画になると思うのですが、今回私も見ることができたこの映画は、音楽も抑えられていて、映像も美しくて、上手く伝えることができないのですが、虐殺の場面など怖い場面があるのにも関わらず、何というか、気品のある映画だったように思います。

捕虜となるのも兵士の運命だけれど、君たちにはどうか生き延びてほしい、君たち無しでは祖国の自由はありえないというようなことを話していた大将の言葉も印象的でした。

ヨーロッパの各国に支配され地図上から消されていたという当時のポーランドの辛くて厳しい状況は、私はどこにいるの?ここはポーランドなの?、という中尉の妹の言葉からも伝わってきました。ソ連軍に殺された1940年の4月の日付を入れた兄の墓標を建てようとしていた妹は、その碑を破壊されて、どこか地下へ連れて行かれてしまい、その後のことは不明でした。

この映画の内容とは直接関係のないことなのですが、昨日の12月8日は、72年前に日本がハワイの真珠湾を攻撃してしまった日で、第二次世界大戦の太平洋戦争が開戦した日でした。

先日与党が特定秘密保護法案を可決・成立させたという報道もあって、近年「戦争時代」の雰囲気が出ているように思えるのが少し不安でもあるのですが、今回の映画を見て、また改めて、単純な気持ちではあるのですが、誰かが引き起こして市民を巻き込んでいく戦争というものは本当に嫌なものだなということを思いました。

映画「カティンの森」では、ポーランドに侵攻してきた「敵」のドイツ軍やソ連軍の兵士たち個人がどのように考えたり感じたりしていたのかというようなところは描かれていませんでした。ただ淡々と、カチンの森で起きた事実と、運命に翻弄されていく人々の様子が描かれていたのだと思います。そのようなところが映画の気品のある雰囲気につながっていたのかもしれないとも思うのですが、それでもあきらめずに祖国に自由が戻る日を願っていたポーランドの人たちの高潔さが表されていたからなのかもしれないとも思いました。

歴史上の問題は、私には分からないことも多いのですが、今もまだカティン(カチン)の森の事件のことは「機密指定」として隠されていることが多いのだそうです。日本の戦争のことでも、「終戦」だけではなく「開戦」に関しても、まだ明らかになっていない「謎」のことは多いそうですし、いろいろな「秘密」について研究がなされないまま、また新しい別の戦争時代に突入することになるのだとしたなら、それもまた本当に不気味なことだなと思います。

昨夜のNHKスペシャルでは、「真珠湾攻撃」に至るまでの世界情勢は情報戦に左右されていて、情報操作やマスコミの利用やスパイ活動や暗号解読が盛んに行われていたということが、ドキュメンタリーとアニメーションなどで簡単に伝えられていたのですが、それを見ても、今の時代はその当時の時代の情勢にまた近づいてきてしまっているような印象を受けました。

8月15日の「終戦の日」は日本が敗戦した日として、人を傷つける戦争は悪いもので、二度と引き起こしてはいけないものだということが言われていると思うのですが、敗戦したからということを踏まえて、大勢の人が傷ついたり殺されたり悲しんだりするような戦争はしてはいけないと言っているのだとするのなら、それは戦争そのものについて反省をしたり後悔をしたりしているということには、全くなっていないのではないかなとも思うのです。

勝ったとしても負けたとしても、どちらにしても戦争というものは酷くて悪いものだという風にならないのなら、この映画の中で「兵士の運命」と言われていたように、戦争を始めてしまうということも人間の運命(あるいは宿命)なのかなと、少し寂しく思います。

「カティンの森」の映画は、逃げ場のない雰囲気の映画だったのですが、感情的な怖さというよりも、人間全体の悲しさというか、何というか、とても静かで厳粛な雰囲気が印象に残る作品だったように思いました。最後まで見ることができて、良かったです。
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