「星を賣る店」という展覧会

先日、東京の南烏山の世田谷文学館で開催されている「クラフト・エヴィング商會のおかしな展覧会 星を賣る店」を見に行きました。

「クラフト・エヴィング商會」のことを、私は知らなかったのですが、「雲砂糖」という商品?を広告で見て、何だか面白そうだなと思い、「星を賣る店」という展覧会のタイトルをかわいく思えたこともあって、見に行くのを楽しみにしていました。1月末頃から開催されていたそうなのですが、私がこの展覧会のことを知ったのは2月になってからです。

「星を売る店」と聞いて、稲垣足穂の小説のタイトルを思い出したのですが、会場の解説によると、実際にそこから付けられたもののようでした。「クラフト・エヴィング」という名前も、稲垣足穂の本の中に出てくる実際の研究者の名前から付けられたものだそうです。

夜空を模したような黄色い星の並ぶ表紙の紺色の展覧会のチラシもかわいかったのですが、それによると、クラフト・エヴィング商會というのは、執筆活動と本の装丁などのデザインワークを主として活動している吉田浩美さんと吉田篤弘さんのユニット名、屋号だそうです。実際にあるお店ではなく(もしかしたらどこかにはあるのかもしれないのですが)、物語の中に登場するセレクトショップなのだそうです。

私が行った日はよく晴れていて、風は冷たかったのですが、青空でした。芦花公園駅を降りて看板の示す方向へ真っ直ぐに歩いて行くと、世田谷文学館がありました。手前には池があって、たくさんの色鮮やかな鯉が泳いでいました。

受付で渡されたチケットは正方形の少し厚い白い紙で、中央に星形の穴が空いていて、上下の角に紺色のチケットを切るところがありました。会場となっている2階の受付の方は、チケットを切った後、「ムーンシャイナー 月下密造通信」という新聞の号外を手渡してくれました。

会場に入ると、そこは白くて細い通路だったのですが、棚卸し中ということで、両脇に白い紙箱が積まれていました。最初の箱には、チケットの星形を切り取った後の白い「☆」がたくさん入っていて、何も知らない私もこの不思議なお店の展覧会に参加をしているような、少し楽しい気分になりました。

展示されていた、「ないもの、あります」というクラフト・エヴィング商會の商品は、架空のものらしいのですが、展覧会場では実際に目の前にあるので、架空のものなのか、本当にあるものなのか、よく分からなくなってきます。白い紙箱の中の商品?はガラスケースに入っているわけでもなく、そのまま置かれていて、商品に値段は付けられていなかったようなのですが、箱に貼られた商品名と説明書きを読んでいると、何だか本当にありそうな気がしてくるのです。ただ、「お手を触れないでください」というような注意書きがあったため、例えば「望永遠鏡」という視線が世界一周をして自分の背中を見ることができる双眼鏡?を実際に試してみることはできませんでした(当然のことかもしれません)。

東京天体望遠鏡という、今自分の目の前で起きている出来事をあたかも夜空の星を見るような感覚で覗き見ることが出来るという商品も、面白そうだなと思いました。「ドラえもん」の四次元ポケットから出てくるひみつ道具のような印象です。

雲母とか、洋服のボタンとか、青色鉛筆とか、ローセキ(蝋石)とか、電報の用紙とか、花火の包み紙の残骸とか、本当のものも展示されているので、紛らわしいような、面白いような、不思議な気分になるのだと思います。お店の商品には小瓶や小箱に納められるような小さなものが多く、クラフト・エヴィング商會の方は、日常の中でうっかり見落としてしまいそうなものをとても大切に思っているのだなと思いました。

白い箱の通路の途中に次の会場へ進む通路があったのですが、そこを少し歩くと、それもまた本当のどこかの路地裏のような空間になっていました(受付でいただいた壁新聞の広告によると、月舟町の路地裏だそうです)。

夕闇の頃だと思うのですが、路地には街灯の明かりが点いていて、手前の「一角獣」という古書店の大きなガラスの付いている扉からもお店の明かりが漏れていました(私はその扉を開けなかったのですが、もし開けていたら中は本当に古書店だったのでしょうか)。ショーウィンドウに並べられている本のタイトルを読むのも楽しい感じがしました。そのガラスの周辺が少し曇っていたのも、見辛いような気もしたのですが、本当のお店のようで、細かい演出だなと思いました。お店の看板も、ブリキ?の広告の看板も、自転車も、昔のようでした。それは私の知らない「昔」なのですが、見たことがないのに見たことがあるような、何となく「懐かしい」という感じのする、このような種類の物語の中のお店らしい雰囲気でもありました。

古書店の隣は、クラフト・エヴィング商會のお店と工房でした。ショーウィンドウには、博物館にありそうな「肺に咲く蓮の標本」や、忘れた記憶が蘇るかもしれないという白くて丸い「雲砂糖」がありました。壁には27個ほどのたくさんの少し錆びた鋏が飾られていて、鋏を見ているうちに段々とそれが何かの鳥の頭のようにも見えてきました。

工房は明るい室内になっていたのですが、テーブルの奥の壁に一覧表のように貼られていた小さなメモが、とても面白かったです。クラフト・エヴィング商會の方のアイデアのメモのような感じだったのですが、真実はひとつは本当か?とか、時代に乗り遅れたいとか、出前少女とか、明智小五郎とか、何となく分かる感じのするものからよく分からないようなものまで、一枚ずつ迷路のように読んでいくのがとても楽しかったです。「口の悪い星の王子様」というのも何だか面白そうで、家の本棚にあるものをそのように読み換えてみたいような気がしてきました。

工房を出ると、次の会場もまた白い空間で、今度はもう少し普通の展覧会場のようでした。「Think」という猫の持ち帰った小さな物の壁の展示も、少し見辛いような感じもしたのですが、かわいかったです。一つずつ小さな額に入れて名前を付けて並べると博物学的になるのだなと思いました。

会場の最後は、クラフト・エヴィング商會がの著書と装丁を手掛けた本が展示されていました。この辺りへ来てようやく、私もこの方たちの作品を見たことがあるのだと気付きました。「戦争×文学」という全集の装丁も、クラフト・エヴィング商會の手掛けたものでした。現実なのですが、まだ現実の世界と架空の世界が混ざり合っているような気がしてきます。これは例えばアニメや漫画作品のモチーフの展示とは違うように思いますし、何かよく分からないのですが、作品の現実と非現実の感じの表現のバランスがすごいのだろうと思います。

日常から非日常への扉を作る仕事をしているというような言葉が、会場の出口の近くの終わりの言葉にようなパネルに書かれていました。それを見た人の想像の世界を広げるきっかけということだと思うのですが、それを読んで、「非日常」の会場を出るのが少しもったいないような気もしてきたのですが、勇気を出して?「日常」へ戻ることにしました。一つの夢の終わりです。展覧会場はそれほど広くなく、むしろ狭い空間だったようにも思えるのですが、会場を出て時計を見ると2時間近く経っていることが分かり、少し驚きました。読み物が多かったためかもしれないのですが、何かとても楽しい展覧会だったのだと思います。

その後、1階の展示室で開催されていた「世田谷文学館コレクション展 旅についての断章」を見ることにしました。

会場の入ってすぐのところには、「齋藤茂吉が留学の際に使用したトランク」が展示されていたのですが、クラフト・エヴィング商會の「星を賣る店」という展覧会を見たばかりということもあって、その本物の展示品を見ても、これは本物なのだろうか、架空の展示品なのだろうかと、少し不思議な感じもしてしまいました。

作家の原稿や著作でまとめたその旅の展覧会も良かったと思うのですが、私としては、会場の白い壁に書かれた旅に関するいくつかの文章の一節を読むのが、何だか面白いように思いました。最近の展覧会では時々このような手法を取り入れているのを見るのですが、断片的な文章は哲学的というか、詩的な感じがしますし、文字が大きく書かれているので読みやすいのです。その中には、クラフト・エヴィング商會の文章もありました。

森鴎外の娘の森茉莉さんという方の展示コーナーがあって、解説によると、フランスのパリの街を好きだったという森茉莉さんは、旅をすること自体はあまり好きではなかったのだそうです。その方の著作を私はまだ読んだことがないのですが、旅好きの作家の方たちの展示に混ざって旅嫌いの方の展示があったのは少し面白いような気がしました。私もどちらかというとあまり旅をするのを好きなほうではないのですが、遠くの見知らぬ町へ出かけることだけではなく、例えばこのように時々面白そうな展覧会を見に行くことも「旅」の一つだとするのなら、私にももう少し旅をする時間や気分が増えるといいなと思いました。

今回の「クラフト・エヴィング商會のおかしな展覧会 星を賣る店」は、確かに少し不思議な展覧会だったと思うのですが、ほとんど何も知らないまま見に行った私にも楽しむことができたので、クラフト・エヴィング商會の作品をよく知っている方や好きな方なら、もっと楽しい気持ちで見ることができたのではないかなと思いました。私も「星を賣る店」に行くことができて良かったです。
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