「台北 國立故宮博物院-神品至宝-」展

先日、上野の東京国立博物館で開催されている特別展「台北 國立故宮博物院-神品至宝-」を見に行きました。

台北の國立故宮博物院の日本初(アジア初?)の展覧会が上野で開かれると知り、私も見に行くのを楽しみにしていました。開催される数日前、この展覧会の一部のポスターなどが「台北 故宮博物院」、と「國立」の文字が記載されていないと指摘されたことから、中止になるかもしれないという騒ぎのようなものがあったそうで、確かに私が最初に見たものには「國立」の文字は入っていなかったのですが、東京国立博物館のホームページの記載には入っていましたし、もしも東京国立博物館の職員の方が間違えたのだとすればそれもまた不思議に思えますし、一体どうしたのだろうか、大丈夫なのだろうかと少し心配にもなったのですが、展覧会は予定の日に無事に開幕していたので、ほっとしました。

展覧会の解説によると、世界四大博物館の一つとも言われている台北の國立故宮博物院は、中国の北宋・南宋から元・明・清の各時代の歴代皇帝のコレクション(大部分は清朝の第六代皇帝の乾隆帝が集めたものだそうです)を収めている博物館だそうで、昔は紫禁城の内にあったそうなのですが、戦争の危険が迫ったために保管場所を移し、さらに内戦の影響を逃れるため、1964年に台湾に移されたのだそうです。

今回の展覧会では、その約69万点という収蔵品の中から186件が紹介されているそうなのですが、中でも有名な「翠玉白菜」は、門外不出だったものが海外初公開されるということで、厳重な警備の下、本館の特別5室の奥の黒い部屋の中に大切に展示されていました。

「白菜」の展示されている本館の前へ向うと、すでに行列ができていたので、とりあえずその最後尾に並んだのですが、私が行ったのがお昼頃だったためか、結局「白菜」を見るまでに2時間ほどもかかってしまい、並んでいる段階で少し疲れてしまいました。でも、最終的に見ることができた「白菜」は、思っていたよりも小さくて厚みも薄かったのですが、スポットライトの光に輝いていて、白菜のデザインに彫刻された翡翠の白色から濃い緑色に変わっていくグラデーションもとてもきれいでした。

この「翠玉白菜」は、西太后の養子となって即位した光緒帝の妃のきん妃の嫁入り道具の一つだそうで、会場内の解説によると、白菜は「純潔」を表し、葉の上にいたイナゴとキリギリスは「多産」を表すそうです。「縁起物」のようでした。

その「白菜」のリアルな描写は、例えば日本の明治時代の「超絶技巧」の工芸品に表現されているようなリアルさとは異なっていたというか、もう少し素朴な印象でもあったのですが、固い翡翠をこのように柔らかそうに彫刻したのは本当にすごいと思います。宝物として大切にされている雰囲気がよく伝わってきました。

「翠玉白菜」以外の故宮の品は、平成館の2階の展覧会場に展示されていました。

新石器時代のものから清時代の作品まで、長い時間を思わせる展示品が、時代の流れに関わらずテーマ毎に並べられていたのですが、そのテーマは、「中国皇帝コレクションの淵源」から「清朝宮廷工房の名品」まで全部で10に分かれていました。

平成館の会場のほうは、本館の「白菜」の行列ほどには混雑していなかったので、一つ一つの作品を間近で見ることができました。

象形文字のような文字が刻まれていた「散氏盤」(読めそうな文字を見つけるのが何だか面白かったのですが、これは「契約書」なのだそうです)、淡く緑色がかった水色がきれいな汝窯の「青磁楕円盤」や「青磁輪花碗」、皇帝の徽宗筆のすっとした字体が美しい「楷書牡丹詩帖頁」、不思議な立体感のある冷謙筆の「白岳図軸」、コバルトが使われている景徳鎮の「青花龍文大瓶」、葡萄の色がカラフルな「豆彩葡萄文瓢形壺」、細かく刺繍された糸が光に当たると波が動いているようにも見える「刺繍かん池浴日図軸」、よく見ると龍が透かし彫りになっている「玉帯飾」、宇宙を表現する「天地人」の「三連玉環」、作るのにとても時間がかかっていそうな「八宝文堆朱方勝形箱」や「梅花彫彩漆輪花合子」、それから、「平家納経」のように、紺紙に金泥の文字で書かれた「妙法蓮華経」、深い緑色の玉に素朴な彫りが施された「石室蔵書玉筆筒」、どちらかというとあまり乾隆帝の好みではなかったらしい「超絶技巧」の「透彫花卉文玉香薫」、現代のデザインのような、内側が白色で外側が明るい濃いめのピンク色の「臙脂(えんじ)紅碗」など、見たことのないようなたくさんのすてきな作品が、ガラスケースの中にゆったりと展示されていました。

掛け軸などには、絵の部分に直接、皇帝が御覧になったという意味の朱色の印がたくさん押されていて、それによって歴代の皇帝が所持してきた歴史が分かるそうなのですが、日本の掛け軸とは違うのだなと、何となく不思議な感じもしました。

「蟠龍文盤」など、殷時代の青銅の作品は、以前根津美術館に展示されているものを私も少し見たことがあったので、何となく馴染みがあるような気もして面白く思いました。紀元前13世紀から紀元前11世紀という、このような大昔の作品が現代に残されているということは、本当にすごいことなのだと思います。

特に、明時代の景徳鎮窯の「白磁雲龍文高足杯」は、私には雲と龍の文様はよく見えなかったのですが、本当に輝くような温かみのある真っ白さで、何というか、牛乳で作られているのではないかという風にも思えたほどでした。

景徳鎮の白磁の杯や紅いお椀は現代の作品として見ても美しいものでしたが、今回の展示の中で特別に「歴史」を感じることができたのは、清時代の「古稀天子之宝」と「八徴耄念之宝」の玉璽という文書でした。それは、乾隆45年(1780年)と乾隆55年(1790年)の西太后の時代に公布された、光緒帝の即位を知らせる文書のようだったのですが、その文書の右半分は漢文で書かれていて、左半分は満州語の文章で書かれていたのです。

鏡を間に置いたように、右半分の漢語のほうは右から左に向かって書かれ、左半分の満州語のほうは、左から右に向かって書かれていました。

私は満州の文字を初めて見たのかもしれません。そのため、最初その展示されている文書を見た時には、何だかアラビア文字のようだなと思ったのですが、隣で見ていた外国の方がこの文字は満州語であると教えてくださったので、改めて展示されていた文書のその文字を見返して、そうなのかと驚きました。展覧会場のパネルの解説には、その文字が満州語であるということは特に書かれていなかったように思います。

その外国の方によると、満州語は横書きで書かれているということでした。漢文のほうは漢字で書かれているので、ところどころ何となく、少しだけなら意味を読み取ることができるのですが、左半分の満州文字のほうは、私には全く読むことができませんでした。でも、その方によると、今では満州族の方の中にも満州語を理解することのできる人はほとんどいなくなっていて、分かるのは大学の学者の人くらいになってしまっているのだそうです。

多民族国家の中国の清時代を統治していたのは満州民族の人々だったそうですが、当時の公布される文書に漢字が使われていたということは、漢字が民の共通語だったということなのでしょうか。そして、清朝が終わると、それまでの権力者の言葉だった満州語は消されてしまったということなのでしょうか。私に解説をしてくれたその外国の方は、だから中華思想は恐ろしいのだということも話してくださいました。もしも日本が占領されたら、と言われて、その時の私は本当にごく普通のたとえ話のように聞いていたのですが、展覧会場を出た後になって、その怖い感じが少しずつ伝わってきました。

私にはできないことなのですが、例えば誰か中国の若い方たちの中で、満州語や他の少数民族の言葉などを研究し、文化としてその民族の土地で復活させることのできる天才的な人が現れるといいなと思いました。

ところで、NHKスペシャルでは、「故宮」の特集が2夜連続で放送されていました。番組の進行役は谷原章介さんと台湾の女優のシア・ルージーさんで、ナレーションは貫地谷しほりさんでした。私もその番組を見たのですが、故宮の至宝が流転した物語の中で、学芸員として日中戦争の前から1980年に80歳で亡くなるまで故宮博物院の文化財を守り続け、「ミスター故宮」と呼ばれていたという荘尚厳さんのことを知り、このような立派な方がいたおかげで、今の私も、中国の歴代の皇帝が収集したという故宮博物院の収蔵作品を見ることができるのだと、本当にありがたく思いました。

33歳の頃、日中戦争(支那事変)の始まる少し前の戦禍の中、文化財の保護を任されたという荘尚厳さんは、考古学を学ぶために日本に留学をしていたことのある方で、良いものは良いと素直に受け入れることが大切だという考え方から、迫り来る日本軍から守るべく湿った洞窟に文化財を隠す際には、奈良の正倉院の高床式倉庫のような倉庫を洞窟の中に建設し、一つ一つ大切に梱包した文化財を守ったのだそうです。

日中戦争の最中、イギリスでの中国文化の展覧会(調査団のリットンが関わっていたそうです)を成功させると、荘尚厳さんは文化の力を再認識したそうなのですが、文化が政治に利用されることには疑問を感じていたということでした。

そして、日本との戦争が終わった後、故宮の美術品は南京に置かれたそうなのですが、国民党を率いる蒋介石と共産党を率いる毛沢東とが対立して内戦が始まると、蒋介石の国民政府(1948年からは中華民国政府)は、南京での戦禍から故宮の文化財を守るために台湾へ移送することを決め、荘尚厳さんは厳選した3分の1を船に乗せて、今の台北の國立故宮博物院の場所へ収めたのだそうです。3分の2は大陸に残したということなのですが、その大陸に残された作品は、その後どうなったのでしょうか。別の博物館に収蔵されているのでしょうか。毛沢東の時代の「文化大革命」の時には、たくさんの美術品や書物や仏像などが失われたそうですが、故宮の宝物は大丈夫だったのでしょうか。

台北の故宮博物院へ宝物を移した後、荘尚厳さんは、アメリカでも中国文化(中華文明)を伝えるための展覧会を開き、成功させたそうです。国内には、宝物を国外へ出すことに反対意見もあったそうなのですが、荘尚厳さんは直接見てもらうことが大切だと考えたそうです。本当に立派な方だったのだと思いました。

ロシア革命の時にも国外へ流出しかけたロシア皇帝の宝物やエルミタージュ美術館などの美術品を守った方たちがいたという話を、以前私も聞いたことがあるのですが、戦争の時には動乱に乗じてその国の大切な文化が破壊されたり持ち去られたりしてしまうことがあるので、それを守りきることは、とても大変なことだったのではないかと思います。

清朝の最後の皇帝の宣統帝溥儀(愛新覚羅溥儀)が、生活の困窮から紫禁城に残されていた歴代皇帝の宝物を外国人に売却したということも、番組では伝えられていて、荘尚厳さんの息子さんは、故宮の品がそのように失われたことを父は残念がっていたという風に話していたように思うのですが、私としては、例えばそうして大英博物館に残されていることで、世界中の人々に中国文化のすばらしさが伝わるということもあるのではないかなと思いました。

日本の美術品も江戸末期や明治時代などにたくさん海外へ流出したそうですが、外国の美術館でも大切にされているということを聞くと、何だかとても嬉しい気持ちになります。

NHKスペシャルの故宮の特集では、台北の國立故宮博物院へ行っていたので、今回の東京国立博物館の展覧会では展示されていないものも紹介されていたのですが、「四庫全書」の内の数冊は展示されていました。

「復刻版」なのではないかと思えてしまうほど、表紙の鮮やかな色がきれいに残されていました。書かれていた内容を読むことはできなかったのですが、番組で「四庫全書」を編纂した乾隆帝の話を聞き、すごい本なのだということを、何となくなのですが、知ることができました。

満州族の乾隆帝は、多民族国家の中国をまとめるため、各民族の思想や考え方を知ろうと、その民族のリーダーと会談をするためにその民族に合わせた建造物を造ったり、各地の民族の書いた書物を集めて、知識や知恵の集合体のような本を作ったりしたそうです。他の民族を差別するような書き方がされていた漢民族の書物からは、その文章を削除したりしてまとめ、結果的には「四庫全書」を読んだ、それまで乾隆帝に否定的だった役人たちも、乾隆帝の能力を高く評価するようになったそうです。

小説家の浅田次郎さん(私はNHKのドラマだった「蒼弓の昴」を好きで見ていました)の見せてもらっていた「四庫全書」の中には当時の日本の本から引用された部分もあるそうで、そのようなところからも、乾隆帝が他の民族の文化を異文化として理解し、尊重する皇帝だったということがよく分かるのだそうです。

それを聞いて、もしも今、その乾隆帝のように他の民族の文化を自分たちの文化と同じように大切にする人物が中国の土地を治めていたのなら世界はどのように変わっていたのだろうかということも、少し思いました。

先の6月の28日は、第一次世界大戦のきっかけとなった「サラエボ事件」の発生から100年の日でした。今年がそのような節目であることも、今回の故宮の展覧会が東京で開かれたことと、もしかしたら何か関係があるのかもしれません。政治は今でも、日本を含めたアジアの各国だけではなく、世界中で不穏のようですし、まだ総括されていない先の戦争時代のことがあまり真剣に反省されていないような気もします。7月1日の日本の自衛隊が作られてから60年目の日に合わせて?与党の自民党が中心になって進めている「集団的自衛権」の行使容認が、最近まで反対していたはずの公明党の支持も得て「閣議決定」されてしまうそうですし、このまま、ほとんど話し合われないままいつの間にか勝手に決められてしまうのではないかということも、一市民の私には不安なことなのですが(政治や社会問題などのことを考えると憂鬱な気持ちになります)、そのような政治とは異なる次元のものとして、今回の國立故宮博物院の展覧会が東京国立博物館で無事に開催されることになり、お互いの国の良い文化を大切にするという考え方が表現されて、本当に良かったです。あるいは、それでも政治は密接に関わっているかもしれないのですが、政治とは関係なく、と思えることだけでも良いことなのかもしれないと思います。

展示されていた作品は、故宮のたくさんの宝物の内のほんの一部だと思うのですが、気の遠くなるような長い中国大陸の歴史を感じることができましたし、私も今回の展覧会を見に行くことができて良かったです。NHKスペシャルの故宮の特集も、故宮と皇帝とその宝物の歴史が分かりやすく伝えられているように思えて、良かったです。

その番組で伝えられていたような中国の歴史や台北國立故宮博物院のことを、私は詳しく知らないまま今回の展覧会を見に行ったのですが、それでも興味深く、楽しく見ることができました。
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