「殺人偏差値70」

日本テレビのスペシャルドラマ「殺人偏差値70」を見ました。

「ヤングサスペンス」というジャンル名を聞いた時、少し昭和風の印象を持ったのですが、今回のドラマは、1982年に「火曜サスペンス劇場」で放送された西村京太郎さん原作のドラマ「受験地獄」のリメイク作品だそうです。

私はその昔の作品を見ていないですし、今回のドラマの予告編も見ていなかったと思います。でも、「4Kカメラ」で撮影されたとか、最近人気のプロジェクションマッピングを演出に使っているということも少し気になり、昨夜の9時には、テレビ東京の開局50周年特別企画の米倉涼子さん主演の松本清張作品の「強き蟻」も重なっていたので少し迷ったのですが、そちらのドラマは録画をしておくことにして、放送時間にはこちらのドラマを見てみることにしました。

今回のドラマのタイトルは、原作小説の「受験地獄」が収められている『殺人偏差値70』という短編集の名前から取ったものだそうです。私はその小説を未読です。

物語は、父子家庭で自分を育ててくれた小さな工場を経営する父親の期待に答えるために東京大学合格を目指して真面目に浪人生活を送っていたものの、3回目の受験当日に朝寝坊をしてしまい、あと数分で自分の人生は終わると絶望した宮原圭介(三浦春馬さん)が、仕掛けた爆弾を爆発させるというメールを大学に送ることを思いついてネットカフェから送信してしまう、というところから始まっていたのですが、その結果、試験開始時刻は11時になり、試験を受けることができた圭介さんは、無事に念願の東大合格を果たし、すでに別の大学に通っている恋人の真山理佳子(瀧本美織さん)にも祝福され、圭介さんへ仕送りを続けていた父親の仙一(高橋克実さん)からも自分の誇りだと喜ばれていたのですが、大学へ通い始めたある日、「お前のことは全部知っている」と話しかけてきた、東大受験に失敗した田中宏志(城田優さん)に脅されて言う通りに50万円を振り込んでしまい、それからも度々目の前に現れるようになった宏志の存在に追いつめられ、破滅していくのでした。

脚本は山岡潤平さん、演出は大谷太郎さんでした。

ドラマを見る前に思っていたよりも、とても面白かったです。

私の家のテレビでは、ドラマの映像が「4K」なのかどうかということはよく分からなかったのですが、きれいな映像のドラマではあったように思います。原色のような色のプロジェクションマッピングも、時々水のように歪む演出も、闇の方へ取り込まれて病んでいく圭介さんの心情を上手く表現していたように思いました。

最後まで緊張感のある構成のドラマで、何というか、無駄に思えてしまうような場面もなかったのだと思います。西村京太郎さんの原作の物語が良いということももちろんあるのだろうとは思いますが、母親に捨てられたという辛い過去のある圭介さんの苦しみも、圭介さんのことを心配する社長令嬢の理佳子さんの戸惑いも、大学へ通うことができなかった自分とは違う道を進んでほしいと息子に期待をかけ過ぎていた圭介さんの父親の後悔も、丁寧に描かれていたように思えて、良かったです。

謎の宏志さんに脅されて、お金を振り込むようになった圭介さんは、お金に困るようになり、大学の友達に紹介されたアルバイトを始めるのですが、それは怪しいクラブで青色の輪状の高額な何かを売る仕事で、そのクラブに理佳子さんが東大のテニスサークルの部長の楠見貴裕(桐山漣さん)と来ているのを見かけた圭介さんは、二人を追いかけた先の部屋に充満していた煙を吸ってしまい、頭を朦朧とさせていました。圭介さんが知らずに売っていた青い輪は、違法な薬物だったようでした。そこには理佳子さんたちはいなかったようなのですが、そこで圭介さんは、腕に赤い花の刺青のある西浦佐奈(栗山千明さん)と知り合いになり、自分の辛い気持ちを理解し守ると言ってくれた佐奈さんに安心感を持つようになるのですが、その薬物の部屋を出た後、圭介さんがふらふらと歩いていた駐車場に現れた宏志は、すでに圭介さんの妄想というか、幻覚の宏志だったようでした。

人生には三種類ある、正しい人生と間違った人生とお前の人生だ、と圭介さんに言っていた謎の宏志さんは、圭介さんの運命を導く悪魔的な存在として描かれていたように思うですが、そのような宏志さんと圭介さんの場面も良かったです。

宏志さんがあまりにも熱心に圭介さんに近付いて諭すので、ドラマを見ていた私にも、何となく宏志さんが圭介さんの妄想の人であるらしいことは分かって来たのですが、どこまでが本当の宏志さんで、どこからが幻覚の宏志かという境は明確ではありませんでした。ただ、圭介さんの部屋で銀行の振込用紙を見つけた理佳子さんは、ネットカフェにいた、圭介さんからお金を脅し取った宏志さんに実際に会っていましたし、その後その本当の宏志さんは警察に捕まって脅したのは一度だと言っていたので、最初の50万円を振り込ませたところは確実に本当の宏志さんだったのだと思うのですが、その後20万円を上乗せして要求して来たのも、本当の宏志さんだったのでしょうか。あるいはそこまでが本当の宏志さんのしたことで、それ以降の、圭介さんを理屈で説得しようと現れた宏志さんからが、幻覚の宏志だったということなのかもしれません。

圭介さんの苦しみは、勉強があまりできずテストの成績が悪かった自分をダメな子だと嫌い続けた母親が、ある日ついに自分を置いて家を出て行ってしまったというところから始まっていたようなのですが、苦しむ小学生の圭介さんを見て、お母さんは死んだことにしようと決めて妻の管理していたガーベラの花壇を息子と二人で壊した圭介さんの父親が、今度は妻に代わって妻とは違う褒める教育をして圭介さんの成績を伸ばし、絶対に一番になれ、お前ならできると期待をかけ続けていたことによって、それは決して悪意からではなかったですし圭介さん自身の願望でもあったと思うのですが、その希望がいつしか東大に合格しなければ自分の人生は終わるという強迫観念に変わってしまっていたということにあったようでした。

どこの家庭に生まれ育ったかという環境や、経済社会が生み出した富裕層と貧困層の教育格差や、そのような要素がその人の進路を決めるというところは、全部ではないとしても、確かにあるような気がします。塾へ通わなくても大学へ進学することはできるかもしれませんが、塾へ通わなくては試験に合格しないのではないかと生徒を不安にさせているところも世の中にはあるような気がします。

例えば、大臣になるような政治家の方や警察官僚の方の多くは東京大学出身だそうですが、何となく、そのような大学を卒業した方たちは、自分の出身校を誇りに思っているためかもしれないのですが、同じ大学の先輩後輩を気にし過ぎるというか、身内で集まっていたい傾向が強いのかなと思うこともあります。もしも今回のドラマの楠見さんのような「選民」的な考え方を持つ人が今の世の中にもたくさんいるのだとするなら、世の中はまだなかなか変わらないだろうなと思いました。(クイズ番組などで大学を卒業した芸能人の方を「インテリ」と呼んでいるのもよく聞くと思うのですが、分かりやすさのためだとしても、私には少し違和感があるのです。)

私としては、出身校名や出身大学名を聞いただけでは、あまりその人の良さのようなものを知ることはできないようにも思うのですが、このドラマがリメイク作品として復活したということは(先のフジテレビのドラマの「家族ゲーム」もそうだったかもしれないのですが)、一般的には、今回のドラマの最初の「受験地獄」が放送されていたという時期から30年ほど経った今でも、「学歴」が重視される社会はまだ残されているということなのだろうと思います。

圭介さんを守ると言った佐奈さんが、生活苦に嫌気が差して夫と息子を捨てた圭介さんの母親にそっくりで、母親のトラウマに苦しんでいた圭介さんが生み出した幻覚の人物だったということも(腕の刺青は母親が好きだったオレンジ色のガーベラでした)、圭介さんの孤独感をよく表していたように思います。

圭介さんの現実逃避は、宏志を殺そうとした結果の、自殺を図るという形で完遂してしまったのですが、理解のある理佳子さんに見守られながら意識を失っていった圭介さんは、幸せそうでもありました。圭介さんの学生証を理佳子さんが返却しに大学の事務課へ行っていたところも良かったです。

圭介さんは、自分で自身の犯行を認めるメールを大学か警察に送っていたということでしょうか。報道では「自殺を図る」となっていたように思うのですが、圭介さんはそのまま亡くなってしまったのでしょうか。圭介さんのお父さんは仕事をしながら泣いていました。東大へ通いたかった、と最後に理佳子さんに言っていた圭介さんの気持ちが、大学を後にする理佳子さんとすれ違うように、他の学生たちに混ざって大学の校舎へ向かおうとしていました。

余韻というのとは少し違うかもしれないのですが、何か寂しい感じがして、そのような終わり方も良かったのだと思います。

私はどちらかというと自分に自信のないほうなので、ドラマを見ながら、圭介さんの辛さが何となく分かるような気もしていました。そのため、圭介さんの感覚に距離を感じた方は、現実をしっかりと見つめて生きることのできる幸せな人なのではないかなとも思いました。

「ヤングサスペンス」という不思議な題のジャンルの2時間ドラマだったので、何となく気軽な気持ちで見始めたのですが、幻想的な雰囲気も含めて、とても良い作品になっていたように思います。私も見ることにして、良かったです。
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