「孫のナマエ」

NHKのBSプレミアムで放送された「孫のナマエ~鴎外パッパの命名騒動7日間」という番組を見ました。

どのような番組か分からなかったのですが、面白そうかなと思い、録画をしておいたものです。

番組は、森鴎外が考えた孫の名前を巡るドキュメンタリードラマでした。

森鴎外は、現代ではいわゆる「キラキラネーム」と呼ばれているような変わった名前を明治時代に付けた「元祖」でもあるということなのですが、天皇制について考え、元号の由来などを研究していたことから、漢字の元々の意味を知ることやその文字を生まれた子に名付けるということをとても重要視していたようでした。

大正9年(1920年)の、明治天皇の誕生日でもある11月3日、奈良の帝室博物館の総長で図書頭を務めていた森鴎外(伊武雅刀さん)が正倉院の扉を開けて風を入れ、宝物の安全を確かめるという行事に出席していた頃、東京にいる森鴎外の17歳の娘の茉莉(黒島結菜さん)に男の子が生まれ、茉莉さんの夫で27歳の帝国大学文学部のフランス文学の助教授の山田珠樹(川口覚さん)から官舎への電話(電報?)で報告を受けた森鴎外は、珠樹さんから名付けを頼まれていたこともあって、すぐに孫の名前を考え始め、「命名典故」と手紙を東京の珠樹さん宛に送っていました。

珠樹さんと茉莉さんの結婚は、森鴎外の友人の医師の紹介で決まったことだったようなのですが、森鴎外はダンテの「神曲」をプレゼントしてくれた珠樹さんを友人として気に入っていたようで、珠樹さんも有名な文豪の森鴎外をとても尊敬していたようでした。16歳の茉莉さんとの結婚直後に森家のクリスマスパーティーに参加した珠樹さんは、「先生」ではなく森家の子供たちのように「パッパ」と呼んではどうかと森鴎外自身に提案され、それからプレゼントとして珠樹さんと茉莉さんの次世代の若い夫婦に宛てた手紙をもらい、それ以降、茉莉さんと同じように「パッパ」と呼ぶようになったようでした。

でも、翌日届いた森鴎外からの命名の手紙には、中国の古い漢字の字体で「雀」を意味する漢字一字が書かれ、「ジャク」と読むと記されていたので、珠樹さんは、その後一週間、義父から送られてくる手紙に困惑しながら、悩み続けていました。

ドキュメンタリーの部分では、森鴎外が子供たちへ宛てたはがきや、森鴎外記念館で見つかったという、珠樹さんに宛てた「命名典故」や手紙の一部が紹介されていました。

森鴎外が、ヨーロッパ人風の読みにしてその音に漢字をあてるという名前を自分の子供たちに付けたのは、ドイツ留学中に「林太郎」がなかなか通じなくて困ったという経緯からだそうです。これからの時代には世界に通用する名前を付けたほうがいいと考えたようでした。

名付けそのものも好きだったようで、鴎外は、例えば与謝野鉄幹と与謝野晶子夫妻の双子の娘のためには、八峰(やつお)と七瀬(ななせ)という名前を送ったのだそうです。

そして森鴎外が孫のために考えた「雀」や「杯」の意味もある「ジャク」という漢字は、「爵」の「つめかんむり」のところが「木」になっているような文字でした。

ドラマによると、当然のことながら?珠樹さんの実家の山田家の父親には猛反対されていた名前だったようなのですが、その漢字と意味について森鴎外からの手紙を読み込んで理解を尽くした珠樹さんは、雀の鳴き声の「節々足々」は節制を意味するのではないかとか、その漢字を使うことに込められた森鴎外の孫への愛情を察し、すばらしい名前だと、子供を「ジャク」と命名することに決めたようでした。

決めた後の森鴎外から珠樹さんと茉莉さんへの手紙の最後には、赤ん坊の名は権現様に任せる、と書かれていたそうです。

珠樹さんがクリスマスの日にプレゼントされた手紙の内容が紹介されていたのですが、それも良かったです。

手紙には、「君たち二人には未来がある、希望がある、未来がなくてはならない、希望がなくてはならない、警戒せよ、敬虔なれ、人の生活は自ら造る物だ」というようなことが書かれているようでした。

若い夫婦の前に現れた幻想の?鴎外が、上流家庭であることや中流家庭であることが必ずしも幸福や不幸に結びつくものではない、人の生活の幸福は人々の心の中にある、それが真の宝だ、その宝を失うな、ということを伝えていた場面も、良かったです。

珠樹さんと茉莉さんは、15日に役所に息子の名前を届けたそうです。番組で紹介されていた森鴎外の日記には、奈良から東京へ戻った11月の22日の記述に、初めてジャクを見たということが漢文で記されていました。

その2年後 森鴎外は病のために60年の生涯を閉じたそうです。でも、鴎外の研究していた言語学は弟子の吉田ますぞうさんに引き継がれ、4年後の「昭和」につながったということでした。

脚本は保坂大輔さん、演出は山田礼於さんでした。

1時間ほどのドキュメンタリードラマの番組だったのですが、7日間の構成も良かったと思いますし、いろいろ楽しく見ることができました。

孫を想う森鴎外の手紙の、「今時分に生まれた赤ん坊は世界を寒いところだと思うだろう」という言葉も、何だかとても良かったです。

名前を付けるということは誰にでもできる易しいことだからこそ却って難しいのだということも、確かにその通りだと思いました。まだ名前のない生まれたばかりの人への愛情と尊敬の気持ちを込めて名前を付けるということは責任重大なことなのだなと、改めて思いました。

最近の「キラキラネーム」を名付ける際にも、名前を巡って家族の中でいろいろもめることはあるのでしょうか。あまりにも読み辛い雰囲気の当て字の珍名を聞くと、変わっているな、とか、子供がかわいそうなのではないかな、などという風に私も思うこともあるのですが、そのような、私には少し変わっているように思えてしまう名前でも、(当然のことながら)名付けられたその人の大切な名前なのだということも思いました。

大正時代の不穏な空気が、古代の中国ではあまり良くないとされている「正」の文字を元号に使ったことによるものなのかどうかは、私には分からないことなのですが、陰陽の関係とか字画とか、歴史のある考え方はそれなりに意味のあるものだとも思うので、「都市伝説」のようでもあるのですが、もしかしたらそのようなこともあるのかもしれません。「平成」は大丈夫なのかなと、少し気になりました。

あと、これはこの番組の内容とはあまり関係のないことなのですが、私は森鴎外の長女の森茉莉さんの小説をまだ読んだことがありません。

以前本屋さんの棚で見かけた時に読んでみようかなと思ったこともあるのですが、「耽美派」という雰囲気が何となく怖いようにも思えてしまって、しかも少し不思議な文体だった印象もあって、そのままになっています。でも、森茉莉さん自身は面白い人だったそうなので(今回のドラマの主人公だった夫の珠樹さんとは後に離婚したそうです)、私もいつか森茉莉さんの著作を読んでみようかなと思います。
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