「日本人は何をめざしてきたのか 知の巨人たち」第1回から第4回

NHKのEテレで先週の土曜日まで4週に渡って放送されていた「戦後史証言プロジェクト」の「日本人は何をめざしてきたのか 知の巨人たち」の第1回から第4回を見ました。

テレビ東京の「美の巨人たち」のようなタイトルの「知の巨人たち」は、以前放送されていた「日本人は何を考えてきたのか」の新シリーズのようで、科学者や哲学者、活動家、政治学者、評論家、歴史小説家のような方たちの戦後の思想を当時の社会情勢と併せて説明し、辿るものでした。

第1回は、「原子力 科学者は発言する~湯川秀樹と武谷三男~」という特集でした。日本人として初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹とその共同研究者の武谷三男、そして高木仁三郎という主に三人の物理学者が、「科学者の社会的責任」を自覚した後、原子力委員長だった正力松太郎が推進した国の原子力事業とどのように向き合い、自身の考えを発言していたのかということが伝えられていました。

湯川秀樹はラッセル=アインシュタイン宣言にも署名をして核爆弾の廃絶を訴え、武谷三男は原子力を外国の秘密の知識は教わらないという「自主」、いかなる人の出入りも拒否しないという「民主」、原子力に関する全ての研究は公表するという「公開」の三原則の下での原子力の平和利用を訴え、原子力資料情報室を設立した高木仁三郎は原子力発電自体が持続不可能な危険なものだとして、その廃止を社会活動を通して科学者として最後まで訴え続けていたそうです。

第2回は、「ひとびとの哲学を見つめて~鶴見俊輔と『思想の科学』~」という特集でした。終戦の翌年に武谷三男や丸山眞男たち7人と雑誌『思想の科学』(1996年3月から休刊になっているそうです)を創刊した鶴見俊輔が、戦時中のような言論統制を否定するため、市民の誰もが自由に自身の考えを発言したり批判をしたり論文を発表したりすることのできる場を設け、その重要さを最後まで訴え続けたこと、そしてその考えを受け継ぐ市民たちが社会的な活動を広げていたことが伝えられていました。

鶴見俊輔は、1960年の日米安全保障条約に関する闘争の時や大学紛争(全共闘)の時には、「声なき声の会」という反対派の市民が集まった団体を作って、終戦直後はA級戦犯の容疑者でもあった岸信介元首相の内閣による日米安全保障条約改定に反対したり、アメリカがベトナム戦争を始めた時には、「ベトナムに平和を!市民連合(ベ平連)」を結成して、デモを行う市民と共に公に意志を伝える活動していたそうです。

第3回は、「民主主義を求めて~政治学者 丸山眞男~」という特集でした。日本の政治を「無責任体系」と分析した丸山眞男の、東京大学での紛争時の迷いや、戦後の日本の民主主義を持続させるためには自ら考え他社の考えも尊重することのできる市民たちによる「永久革命」が必要だという思想を伝えるものでした。

民主主義が完成した国はまだ世界中のどこにもない、という意見を聞いて、確かにそうだと思いました。一般市民のみんなが民主主義を要求して「革命」を続けなければ、民主主義は完成しないどころか、妨害されて消えてしまう恐れがあるのかもしれないと、少し怖くなりました。

第4回は、「二十二歳の自分への手紙~司馬遼太郎~」という特集でした。22歳で敗戦を迎えた司馬遼太郎(福田定一)は、何とくだらない戦争をする国に生まれたのだろう、こういう馬鹿なことをする日本人というのはいったい何なのだろう、いつから日本人はこんなに馬鹿になったのだろうというような疑問を持ち、「二十二歳の自分への手紙」として、長い間小説などの作品を書き続けていたのだそうです。

司馬遼太郎は、出征前に通っていた大阪外語学校では、蒙古語(モンゴル語)を習っていたそうで、戦後、念願だったモンゴルを訪れた時には、言葉にならないほどに感動していたのだそうです。

また、「日本人」ではなく「アジア人」になりたいと言っていたという司馬さんは、在日の韓国人や朝鮮人の方たちと交流を深め、古代の朝鮮半島の人たちと日本列島の人たちとの交流の歴史に思いを馳せていたそうです。

第1回から第4回まで、それぞれ1時間半の番組だったのですが、長く感じることはなく、毎回興味深く見ることができました。

そして、毎回の特集を見ながら思ったのは、時代背景が過去のものであるにも関わらず、今と同じだな、ずっと変わっていないのだなということでした。

核爆弾は今でも世界中にありますし、2011年の3月に福島第一原子力発電所の爆発が起きたことの責任がどこの誰にあるのかも曖昧のまま、爆発当時は「安全神話」だったとあれほど言われていたのにも関わらず、その震災後の日本でもまだ他の地域の原子力発電所が再稼働されようとしていますし、放射性物質についての不安を発言しただけで「風評被害」につながるからと注意されることもありますし、「戦後レジーム(体制)からの脱却」とか、「日本を取り戻す」とか、鶴見さんの警告していた「お守り言葉」のような政治のキャッチフレーズが市民に向けて使われ続けているような気がします。

政治家や国民の間で慎重な話し合いがなされないうちに強行採決とか自然成立とかでいつの間にか法律が決まってしまったり、メディアが今の与党の政治に対する批判を控えたり、「反日」が行われているからと言って近隣の国の人のことを少し悪く言ったり、今回のシリーズで特集されていた「知の巨人たち」が当時憂慮していた問題は、まだあまり解決されていないというか、ほとんどそのまま移行しているようにも思えました。

先日の報道では、栃木県内の、放射性物質が1キロ当たり8000ベクレルを越える指定廃棄物の処理施設の建設を巡って反対運動が起きているということが伝えられていましたが、その土地も環境省の担当の役人の方が勝手に決めた場所のようでした。(そもそもその指定廃棄物になるような放射性汚染物質は栃木県や各県内などから「出たもの」ではなく、爆発した東京電力の福島第一原子力発電所から飛来し蓄積したものなのだから、私には、その指定廃棄物というようなものは各県に散らしておくのではなく、むしろ爆発現場となった東京電力の敷地内に一括して集めたほうがいいようにも思えるのですが、どうなのでしょうか。)

番組の中で紹介されていた湯川秀樹さんの、核を廃絶し、軍備を無くすという私が敗戦から繰り返し申し上げていることは至極分かりやすい話なのでありますけれども、なかなか皆さんが分かってくださらないのはむしろ不思議なことであると思っています、僕は何も変わったことは言っていません、みんなの考えが変わるのが遅いと思います、というような気持ちは、湯川さん以外の「知の巨人」たちの思いにも通じるものだったのではないかなと思いました。

司馬遼太郎さんの遺言書のようなものだという『二十一世紀に生きる君たちへ』という有名な本を、私は未読なのですが、番組の中で紹介されていた、「いたわり」、「他人の痛みを感じること」、「優しさ」は本能から出るものではないから、それを私たちは、いつの時代になっても人間が生きてゆく上で欠かすことのできない心構えとして訓練をして身につけねばならない、というような内容の文章を聞いて、はっとしました。すごいなと思いました。

国際社会の中で明治以降よくここまでやってきた、だけど太平洋戦争のようなミスがあった、アジアの諸国に随分迷惑をかけて、結局は後々まで日本人は、ものを考える日本人は少しずつ引け目を持って生きていかなければいけない、それだけのことをやってしまった、相手の痛み、相手の文化や歴史などをよく知って自分がその国で生まれたが如くいろんな事情を自分に身につまされるように感じる神経を持った人々がたくさん日本人に出てくることによってしか、日本は生きていけないんじゃないか、という司馬遼太郎さんの言葉も、誠実な考えのように思えました。

番組の中の鶴見俊輔さんは、未来へ導く真理を得るためには、原爆を落とされた唯一の国であるということや戦争中の酷い出来事など、失敗した記憶を忘れないという「消極的能力」が必要だというようなことを話していました。

最近の日本では、戦後の日本の歴史を書き換えようとしている雰囲気があるような気がします。ヨーロッパやアジアの歴史の中で日本史を考えていたという司馬遼太郎さんは、自身の自由な考えを「司馬史観」と呼ばれるのをあまり好きではなかったそうなのですが、例えば第二次世界大戦中の日本の行為を「侵略」としただけで「自虐史観」という言い方がなされているところなども、私には少し奇妙に思えます。仮に事実だとしても少しでも日本にとって不利な出来事を伝える場合にそれを「自虐」と捉えて否定してしまったら、鶴見俊輔さんの話していたような過去の出来事を忘れない「消極的能力」を正しく発揮することができないのではないかなと思います。

今の日本国憲法は敗戦後アメリカのGHQに押しつけられたものだというような説も、私には少し間違っているように思えます。訂正させられてしまった個所はあるのだと思うのですが、当時の草案の担当者が未来の日本のためを思って、アメリカの担当者と話し合って、きっと命懸けの感じで、筋が通るように考え抜いた結果のものではないかと思うのです。

今年は昭和20年の終戦から69年目の年ですが、戦争に関する事実には隠されていることや抹消されていることも多いのだろうと思いますし、何が本当のことなのかを完全に知ることができる時は来るのでしょうか。

「歴史は繰り返す」という言葉がありますが、似たようなことを人間は繰り返してしまうという意味だとするなら、その言葉はきっと正しいのだと思います。学校での日本史や世界史の授業の時ように「暗記」をするのはなかなか難しいのですが、少しずつでも過去の歴史を知るということは、現在と未来のためにはとても大切なことなのだと思います。今回のシリーズを見ていて、また改めて思いました。同じような失敗を繰り返さないためにも過去の失敗を忘れないことが大切だというようなことは、個人の問題としても国家などの社会の問題としても同じなのかもしれません。

「知の巨人」たちの思想の一部を私も少し知ることができて、面白かったです。良い特集でした。あと、NHKの加賀美幸子さん、広瀬修子さん、上田早苗さん、礒野佑子さんの語りも、西島秀俊さん(第3回)と小林薫さん(第4回)の朗読も、聴きやすくて良かったです。
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