「マグリット展」

先日、東京の六本木の新国立美術館で開催されている「マグリット展」を見に行きました。

ベルギーの画家のルネ・マグリット(1898ー1967)の展覧会です。日本で開かれるマグリットの本格的な回顧展は、2002年以来、13年振りのことだそうです。

マグリットはとても有名で人気のある画家ですし、好きな方もたくさんいるのだと思うのですが、ただ、私は「シュルレアリスム」の系統の作品をあまり好きではないというか、少し苦手に思えてしまうところがあります。

マグリットの絵も、私が最初に見たのは小学校か中学校の美術の教科書の中だったように思うのですが、周囲の生徒たちには人気だったマグリットの作品の面白さが私にはいまいちよく分からず、「不思議」とか「謎」とか「神秘」とか(今回の展覧会のチラシにも書かれていましたが)、そのような言葉で形容されるのを聞く度に、一体どの辺りが「不思議」なのだろうと少し疑問に思えていました。

確かに、古典の作品と比べると、絵の題名と内容が分かりやすく一致しないとか、絵の内容そのものが変わっているとか、そのようなことはあると思うのですが、その「不思議さ」は作者が意図的にそのようにしたものですし、何というか、上手く伝えることができないのですが、絵の内容そのものというよりも、ほら、不思議でしょう?、面白いでしょう?、というような、作者の自信や自負というか、「これ見よがし」な雰囲気が出ているように思えるところが、私には少し苦手に思える点なのかもしれません。

それでも、世界中の多くの人たちが「シュルレアリスム」の作品やマグリットの作品を好きだということは、単純に私に分からないだけで、きっとそこには何か良いものがあるのだろうとも思います。

そして、たくさんの作品を体系的に一度に見ることのできる回顧展を見たなら、マグリットの絵を私も好きになることができるかもしれないと思い、少し迷ったのですが、以前上野にダリの回顧展を見に行った時のように、マグリットの作品を好きになりたいという気持ちで、今回の展覧会を見に行くことにしたのでした。

展覧会のチラシによると、約130点の作品が展示されているということでした。展覧会場は、国立新美術館の2階だったのですが、お客さんはたくさんいたものの、思っていたよりも混雑はしておらず、楽な気持ちで展示されている作品を自由に見ることができました。

第1章は初期作品(1920ー1926)、第2章はシュルレアリスム(1926ー1930)、第3章は最初の達成(1930ー1939)、第4章は戦時と戦後(1939ー1948)、第5章は回帰(1948ー1967)と、時代ごとに5章に分けられて展示されていたのですが、作品の並び順は、入り口に置かれていた展示作品の一覧表の通し番号通りではありませんでした。

展覧会場の絵の隣の解説は、美術館の方による解説ではなく、「生命線」という講演?でのマグリットさん自身による作品解説の言葉のようでした。

最初の方に展示されていた初期の作品は、「アール・デコ」のデザインの作品が多かったように思います。私はマグリットがこのような作品を描いていたことをあまり知らなかったので、マグリットの作品だと聞かないで見たなら、きっと分からないだろうなと思いました。

その後展示されていた作品は、マグリットらしいというか、「シュルレアリスム」の感じのする作品群でした。

例えば、木や窓、青空、曇り空、額縁、鉄の鈴(植物の気孔のようにも見えました)、魚、月、岩、木の葉、洋服を着ていない女性、帽子をかぶった黒い服装の男性、人間の身体のパーツ、家、切り絵(折り紙を何度か折り畳んで切り込みを入れて開いたような感じのものでした)など、同じモチーフが繰り返し描かれていました。

年表によると、マグリットは三人兄弟の長男で、14歳の頃に母親が川で投身自殺をしたということでした。その事実が作者の作品に影響を与えているかどうかは、私には分からないことなのですが、影響が全くないということはないのではないかなとも思いました。

「光の帝国Ⅱ」は、やはり私には、昼の青空と夜の町の風景というよりは、ごく普通に昼の鬱蒼とした森の中の町にしか見えないのですが、解説を読まなかったとしても、見る人によっては、「昼」と「夜」であるという風に上下にはっきりと分かれて見えるのかもしれません。でも、鬱蒼とした葉に覆われた森の道は昼でも暗いですし、そのような中を歩いている時に時々木の葉の隙間から青空が見えるとほっとします。だから、というわけではないですが、やはり昼と夜が同時に描かれているのではなく、ごく普通に昼の空と森が描かれているように思えるのです。

「人間の条件」という作品の解説にあった、私たちが見ている外の世界は内部の表象である、という考え方は、哲学的で(ショーペンハウアーもこのようなことを言っていたように思います)、私にもよく分かるような気がしました。

「へーゲルの休日」という作品の解説の文章に書かれていた「もう一人の天才」が哲学者のへーゲルのことだとすると、最初の一人目の天才とは、一体誰のことなのでしょうか。(もしかしたらマグリットさん自身のことを指しているのかなとも思ったのですが、さすがにそれは違うかもしれないですし、少し気になりました。)

1930年頃から、マグリットは、「問題と解答」という芸術の方法論で絵を描いていたそうです。その解説を読んで、少しなるほどなと思ったのですが、マグリットの「シュルレアリスム」の作品は「思考実験」というものを表現するために描かれていた、実験的な作品だったのかもしれないなと思いました。

私は、例えば、マウリッツ・コルネリス・エッシャーの版画の「不思議さ」が好きなのですが(初期の版画作品も良かったように思います)、その「不思議」は、数学的というか、自然というか、貝殻の螺旋の渦巻きが不思議であるというような不思議さなのではないかと思います。(そのため、私にはエッシャーの作品が「だまし絵」として括られてしまうことを、少しもったいないように思うことがあります。)

それに対して今回の展覧会で見たマグリットの作品の「不思議さ」は、作者の「実験」のために意図的、示唆的に作られた人工の不思議さ、デザイン的な不思議さであるような気がします。間違っているかもしれないのですが、私は展覧会場に展示されている作品を見ながら、何となく、そのように思いました。ある効果を絵を見る者にもたらしたいというような作者の目的を表現するための、実用的な意匠であるような気がしました。

時々同じように「だまし絵」で括られることのあるエッシャーの作品とマグリットの作品を比べることは(ジャンルが異なるように思えますし)もしかしたらあまり良くないことなのかもしれないのですが、それでも、「不思議」ということでなら、私には、エッシャーの作品の方がずっと「不思議」に思えるのです。(絵の違いとは関係のないことなのですが、エッシャーとマグリットの生まれた年が同じであるということを今回知って、何だか少し面白く思いました。)

第2章の辺りに展示されていた、「出現」という、空の雲の中から、何か得体の知れない、白色や淡いピンク色や水色のダイヤ型の模様に囲まれた液体のような黒い固まりが現れていた作品は、少し面白く思いました。

絵に描かれた言葉の問題も、会場の解説を読んでみると面白く思えたのですが、個々の作品に記されていた外国語の日本語訳がなかったので、その外国語を知らない私には読むことができませんでした。

妻の?身体を描いていたところは、ダリのようだなとも思ったのですが、ダリの絵とは違って、美化しているようで美化していないような印象でもありました。あるいは、マグリットのように女性(の身体?)を好きな方が見たほうが、絵の良さや面白さのようなものをよく理解することができるのかもしれないなと思いました。

今回のマグリットの回顧展は、マグリットの作品を好きな方にとってはそもそもを楽しむことができるものになっているのだと思うのですが、私のように、あまりマグリットの作品を好きに思うことができないまま展覧会を見に行ったとしても、それなりに楽しむことができる展覧会になっているような気がしました。

今回の展覧会を見終わっても、作品の印象は見る前とそれほど変わらなかったのですが、それでも展覧会そのものは、私も見に行って良かったと思います。これはどの作品についても言えることなのかもしれないのですが、「シュルレアリスム」のマグリットの作品は、好きな方はやはり好きなのだろうなと思いました。

「20世紀美術の巨匠」と呼ばれているのは、その後のアートやデザインや広告の世界に大きな影響を与えたからなのだそうです。私はデザインの世界のこともよく知らないのですが、その点は、確かにそうなのかもしれないなと思いました。

「ある聖人の回想」も「大家族」も「空の鳥」も、白い雲の浮かぶ青空の色がきれいでした。今回の展覧会で見たマグリットの描く青空には、あのような、小さな綿菓子のような雲が浮かんでいることが多かったような気もするのですが、それは、マグリットがそのようなデザインの雲を好きだったからなのでしょうか。それとも、マグリットの暮らしていた街からは、あのような形の雲がよく見えたということなのでしょうか。様々な形の雲がある中で、どうしてこの形の雲を選んで描いたのだろうと、何となく気になりました。

私にはマグリットの作品を不思議だと思って楽しむ力が足りないということなのかもしれません。それでも、今回の「マグリット展」は、良い回顧展だったように思います。会場でマグリットの絵を見たり解説を読んだりしながらいろいろ考えることができて、楽しかったです。
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