「よみがえる 和の刻 『独立時計師 菊野昌宏の挑戦』」

先日のNHKのBSプレミアムで放送され、録画をしておいた「よみがえる 和の刻(とき)『独立時計師 菊野昌宏の挑戦』」というドキュメンタリー番組を見ました。

2014年の秋から半年間、独立時計師の菊野昌宏さんに密着取材し、春のスイスで開かれる「バーゼルワールド」に出品する「万年時計」の和時計を小さくした新しい腕時計の製作過程を追うという特集でした。

時計に詳しくない私は、「独立時計師」という言葉を数年前に知ったくらいなのですが、初めて「独立時計師」という言葉を文章の中に見つけた時には、まるで時間を操る魔法使いであるように思えて、何てかっこいいのだろうと驚きました。

スイスで毎年開催される「バーゼルワールド」というのは、世界中から新作の時計が集まる、時計の見本市なのだそうです。その一角に「独立時計師アカデミー」というブースが設けられていて、「独立時計師」と呼ばれる、時計会社に属さずに、オリジナルの時計を一から全部たった一人で作るという時計職人の方たちの作品が展示され、紹介されているそうです。

番組によると、現在、「独立時計師アカデミー」には、厳しい審査を通過した、世界16カ国35人の独立時計師の方が所属しているのだそうです。番組の途中では、フィンランドやフランスやウクライナやイタリアやスイスの5人の独立時計師の方の腕時計が、作者の方の言葉と共に簡潔に紹介されていたのですが、どの腕時計も独創的で、斬新で、実用的というよりは芸術的である印象でした。その見本市での「独立時計師アカデミー」のコーナーは、独立時計師の方たちの個展のようになっているのかもしれないなと思いました。

そして、その独立時計師の35人のうちの一人が、32歳の日本人の菊野昌宏さんという方でした。自衛隊に入って銃の分解をする仕事を任されていた頃、独立時計師を紹介する雑誌の記事と出会って感銘を受け、独立時計師になることを目指して時計の学校で学び、独立時計師になったのだそうです。金色の折り鶴の羽が小さくはためくからくりの付いた腕時計もかわいかったのですが、船箪笥や枯山水など、菊野さんは「和」をテーマにした時計を多く作っているのだそうです。

独立時計師は、デザインも、設計も、細かい部品作りも、組み立ても、調整も、動作の確認も、最初から完成までを全部たった一人で行うそうで、番組では、「からくり儀右衛門」と呼ばれる江戸時代末の発明家の田中久重を師と仰ぐ菊野さんが、時にはとても小さな部品を作るために北海道のご実家の作業場に戻ったりしながら、時計を作る千葉の部屋で一人で「万年時計(万年自鳴鐘)」の和時計をモチーフとした新しい腕時計を作る作業に没頭している様子を伝えていました。

金属板を細い鋸で削って小さな針や歯車を作ったり、火で炙って針に青色や紫色をつけたり、顕微鏡のようなレンズを覗き込みながら部品や機構の微調整をしたりしている様子を見ていて、本当にこのような作業をたった一人で行うことができるのだろうかと思う一方で、そのような繊細な作業が続けられていることに驚きました。本当にすごいなと思います。

また、菊野さんは、国立科学博物館の資料室で、江戸時代の時計職人の道具箱というものを見せてもらっていたのですが、その道具箱も何だか宝箱のようで、とてもすてきでした。引き出しの中にはたくさんの道具や歯車のような小さな時計の部品が入っていて、私にはどのように使うのか分からないものがほとんどだったのではないかと思うのですが、博士の部屋を小さく凝縮したような道具箱の世界は、何というか、おしゃれな印象でした。

バーゼルに出発する6日前の2015年の3月11日に新しい時計の部品が全て揃ったということだったのですが、その数は293個なのだそうです。すごいです。

細かい調節を繰り返しながら、最後にベルトが付けられて無事に完成していた不定時法の腕時計は、「和時計改」と名付けられていました。時計の裏側の丸窓は鎌倉の明月院の丸窓で、その麻の葉紋は「万年時計」の透かし彫りをイメージしたものなのだそうです。

自分が死んだ後も残り続けてくれる、持ち主の人に大切にしてもらって、そのまま長い時を生き続けてくれたら嬉しい、と菊野さんは話していました。未来の時計師がこれを見てどう思うか楽しみです、未来の時計師へのメッセージがこの時計の中に込められている、とも話していたので、菊野さんはご自身の制作した時計にとても自信を持っているというか、完成した世界に唯一つの時計をとても誇りに思っているのかもしれないなと思います。

2015年の3月19日に開かれたという「バーゼルワールド」には、8日間で15万人が訪れたのだそうです。番組の最後のインタビューで菊野さんが、帰ったらまたすぐに時計を作りたいと話していたのも印象的でした。もしかしたら他の独立時計師の方たちもそのように思っていたのかもしれないのですが、独立時計師の方たちは、本当に時計を創るのが好きな方たちなのだろうなと思いました。

独立時計師の方の時計は、値段をつけると2000万円以上するのだそうで、私には絶対に買うことのできない時計なのですが、時計を持つ人間に共通する「時間」というものに関する思想が美しく表現されたものであるようにも思えるので、例えば美術展で見ることのできる昔の人が作った有名な工芸作品のように、芸術作品なのだろうと思います。

独立時計師のことも機械式時計のこともほとんど知らないままなのですが、私も今回の特集を見ることができて良かったです。少しでも知ることができて、楽しかったです。私が言うことではないかもしれないのですが、独立時計師の方には、その方の理想とする、独創的で一つ一つ手作りのとてもすてきな時計を、これからも作り続けてほしいなと思いました。
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