『月映(つくはえ)』の展覧会

先日、東京駅の北口にある美術館、東京ステーションギャラリーで開催されている、「月映(TSUKUHAE)」展を見に行きました。

展覧会の解説によると、公刊『月映』は、1914年(大正3年)から1915年(大正4年)にかけて、20代前半の美術学生の田中恭吉さん、藤森静雄さん、恩地孝四郎さんたちが作った、木版画と詩の雑誌だそうです。

『月映』のことを、私はその名前は聞いたことがありましたが、あまり知りませんでした。ただ、「月映(つくはえ)」という言葉がとてもきれいに思えて、また、その木版画の静かな雰囲気を知りたく思い、今回の展覧会を見に行くことにしました。

エレベーターで上がった3階の展覧会場には、思っていたよりも多くのお客さんがいたのですが、各スペースの番号順に、自由に作品を見ることができました。

竹久夢二の影響を受けたという3人の作品を見た私の最初の印象は、このように言ってはいけないのかもしれないのですが、荒削りで、暗くて、病んでいる、という感じのものでした。

ただ、展覧会場に貼られていた作者たちの年表によると、作者自身が病気を患っていたり、妹が病に伏したり、といった健康上の理由も多分にあったようでした。

作品が荒削りであるように見えたのは、作者の命や情熱が作品作りを急がせていたためかもしれないと、何となくそのように思えてきました。

『月映』の木版画が、そもそも「寂しさ」を表現しようとしていたということが分かり、それが私には少し意外だったのですが、しかし、とても好ましく思えました。寂しさは、とても詩的な感情だと思うからです。

『月映』の詩がもう少し多く紹介されていたほうが、木版画の絵の内容がもっとよく分かるようになったのかもしれないとも思えたのですが、木版画を見ていく中で、その闇の中に描かれている小さな光が、何か、救いの光のようにも見えてきました。

田中恭吉さん、藤森静雄さん、恩地孝四郎さんの他には、作品リストによると、久本信男さんや香山小鳥さんの作品が展示されていたのですが、その若い方たちの木版画は、若い魂の苦悩や葛藤を命を削るように表現した、とても内省的な作品なのだと思います。

今回展示されていた作品の中では、私としては、藤森静雄さんの「永遠」、「春」、「夜の蝶」、「自然と人生」という作品が良かったです。(田中恭吉さんや恩地孝四郎さんの作品で良かったものもあったのですが、「失題」と書かれているものも多かったように思います。)

特に「自然と人生」は、夜空と山の青みがかった薄暗いグラデーションが静かで美しいのですが、その谷間のトンネルのところを細長い電車が走っていて、窓の明かりが僅かに人の気配を感じさせるのです。公刊『月映』のものにも「自然と人生」はあったのですが、公刊のものではないほうが(最初に展示されていた私家版の作品のほうが)、淡い色で良かったです。この木版画の絵そのものが良かったということももちろんあると思うのですが、私が小学生の頃に図工で描いた絵と少し似ていたので、親近感があったということもあると思います。

私には何が描かれているのかよく分からないような、少し難しく思える作品もあったのですが、このような内省的な作品はおそらく作者のことを知ることでよく分かるようになるものなのだろうと思います。

展覧会場は3階から2階へ続いていたのですが、その最後の辺りに、詩人の萩原朔太郎が恩地孝四郎さんへ宛てた手紙が展示されていました。面白い手紙でした。詩集『月に吠える』の絵を、朔太郎さんは田中恭吉さんに依頼していたそうなのですが、田中恭吉さんが亡くなってしまい、恩地さんにその旨を伝えて、改めて詩集の絵を依頼していました。

私は『月に吠える』の表紙絵を見たことはありましたが、田中恭吉さんが描いたものであることをちゃんと憶えていなかったのだと思います。

展示されていた当時の『月映』の広告用のポスターには、「つくはえ」と書かれているものと「つくばえ」と濁って書かれているものとがありました。ローマ字では「TUKUHAE」と書かれていたので、おそらく「つくはえ」が正しい読み方なのだろうと思うのですが、どちらにしても、「つくばえ」よりは絶対に「つくはえ」のほうが良いと思いました。

会場を出て、東京駅の北口のドームの下の廊下を歩き、ミュージアムショップへ入って今回の展覧会の本や絵はがきなどを探して、東京ステーションギャラリーを後にしました。

東京駅も駅前の丸の内も人が多くて賑やかで、大正初期の静かな木版画の世界の余韻はすうっと終わってしまったのですが、竹久夢二や萩原朔太郎も関わっていた、文学史・版画史の一頁を飾る『月映』の世界を私も少し知ることができて良かったです。
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