「“くたばれ”坊っちゃん」

NHKのBSプレミアムで放送されていたNHK松山放送局制作のドラマ「“くたばれ”坊っちゃん」を見ました。愛媛発地域ドラマです。

夏目漱石の小説『坊っちゃん』に登場する旧制中学の教頭の赤シャツの孫として故郷の道後の街で白い目で見られてきた矢崎純平(勝地涼さん)は、祖父を成敗した坊っちゃんの影から逃げるように東京へ出て特撮怪獣映画を撮影するスタジオで働いていたのですが、温泉以外の道後の町興しの企画を考えるリーダーを務めることになった、中学校時代の同級生で役所に勤めている高砂ゆかり(瀧本美織さん)に頼まれて、10年ぶりに「嫌い」な故郷へ戻ることになり、道後へ向かう路面電車の中、音量が下がらなくなったラジオを突然床に叩きつけて壊して止める怪しい老人(山﨑努さん)に遭遇し、街の『坊っちゃん』のイベントで司会を務めていた同級生の轟宗太(遠藤要さん)に「赤シャツの孫」として捕まって晒し者にされようとしていたところを老人に助けられました。

老人をアパートの2階の部屋へ連れて帰った純平さんは、1階の部屋に暮らす野だいこ(左とん平さん)から、あの老人は宿敵の「坊っちゃん」ではないかと言われて戸惑うのですが、老人に「坊っちゃん」の町興しの企画には何をするのがいいかと訊き、老人に言われた「坊っちゃん化け屋敷」をゆかりさんに提案したところ、その企画が採用されることになりました。

亡き祖父の宿敵の「坊っちゃん」をヒーローとして扱う故郷の街に対して複雑な思いを抱いている純平さんは、企画への参加に乗り気ではなかったのですが、お化け屋敷の会場となる学校について来た老人が本当に「坊っちゃん」であることを知ると、「赤シャツ」の祖父を悪者にした老人に怒りをぶつけ、「坊っちゃん」に復讐をするような気持で、「坊っちゃん化け屋敷」の特殊メイクの仕事を引き受けて、ゆかりさんや宗太さんたちとそのイベントの準備に取り組み始めました。

純平さんは、ゆかりさんが役所内でいつも東京から来た公務員の黒岩和巳(大川裕明さん)の身体を支えていることを気にしていたのですが、ゆかりさんによると、階段で黒岩さんにぶつかって怪我をさせてしまい、黒岩さんの脚の神経が麻痺してしまったということでした。お化け屋敷の準備が終わる頃、黒岩さんに呼び出されたゆかりさんは、付き合ってほしいと言われて断ったところ、脚の怪我のことを持ち出されて困惑していました。純平さんはゆかりさんを助けに行くのですが、その時、老人も現れました。老人は、手にしていた杖で黒岩さんの脚を叩き、痛がる黒岩さんの脚の神経が麻痺してなどいなかったことを証明したのでした。黒岩さんは怒りながら一人で帰っていきました。

その後、お化け屋敷は完成しました。祖父のお墓参りへ行った純平さんは、この街に生まれて良かった、と感謝していたのですが、その矢先、お化け屋敷から出火したと連絡が入りました。純平さんは会場の学校へ急ぎ、自分の作ったお化けの被り物などを取りに走ったのですが、抱えきれないたくさんのものを持ち出そうとしていた純平さんを、老人が助けに来ました。この街を好きになったから失いたくないのだと訴える純平さんに、老人は、それなら過去を捨てろと言い、何度でもやり直せばいいと話しました。純平さんが老人と一緒に外へ出ると、そこにはゆかりさんも待っていたのですが、警察に捕まっていた犯人は黒岩さんでした。黒岩さんがゆかりさんに振られた腹いせに放火をしたようでした。

翌朝、火事で焼け焦げた教室を見たゆかりさんは、このほうがお化け屋敷に合っていると笑い、お化け屋敷を作り直すことを決めていました。ゆかりさんに昨夜の老人のことを訊ねた純平さんは、駅に向かっていたという慌てて老人を追いかけ、商店街を歩いていた老人を遠くから呼び止めました。老人は、赤シャツの言った通りだったと、孫の純平さんに会えたことを喜んでいました。そのまま帰ろうとする老人に、純平さんが「くたばれ!坊っちゃん!」と叫ぶと、もうくたばってるよと老人はつぶやき、純平さんが老人のほうを振り返った時には、老人の姿は消えていました。

アパートに戻った純平さんは、野だいこから、後で調べたら坊っちゃんはとっくに死んでいたと教えられました。純平さんの部屋のテーブルの上には古い手紙が残されていたのですが、そこには、あの頃よりも良い街になった、美味しい酒でも飲もうと書かれていたのですが、それは赤シャツが松山から東京へ戻った坊っちゃんに宛てた手紙でした。

脚本は武藤将吾さん、演出は宇佐川隆史さんでした。

夏目漱石の『坊っちゃん』の舞台となった故郷の道後の街を嫌って逃げ出していた赤シャツの孫の純平さんが、「坊っちゃん」のイベントのために帰郷することになり、そこで出会った因縁の坊っちゃんらしき無鉄砲で横柄な老人に振り回されたり助けられたりしながら、自分自身を受け入れ、生まれ育った道後の街を好きになっていくという、成長物語でした。

山﨑努さんの演じる老人がとても良かったです。晩年の坊っちゃんの幽霊かどうかは、はっきりとは描かれていなかったのですが、もしも『坊っちゃん』の坊っちゃんが生きていたらこのような老人になったかもしれないなという感じが、よく表れていたように思いました。

純平さんが老人に向かって「くたばれ!」と叫んでいたのには少し驚いたのですが、この場合の「くたばれ!」は、愛情表現だったのだと思います。最後の赤シャツの手紙の展開も、とても良かったです。主人公が赤シャツの孫という時点で、赤シャツ目線で描かれたドラマだったのかもしれないのですが、このドラマの中の赤シャツは(細かく描写されていたわけではないのですが)、坊っちゃんのような真っ直ぐな正義感や無鉄砲さだけでは生きることのできない、世俗的な社会の中で普通に生きている多くの人の代表ということだったのかなと思います。

赤シャツを殴って松山を出た坊っちゃん(老人)と、坊っちゃんの影から逃げるように故郷を離れた純平さんが、坊っちゃんは赤シャツに誘われて、純平さんは「坊っちゃん」に誘われて街に戻って来ていたというところも、とても良かったように思います。

純平さんが故郷を受け入れることと、『坊っちゃん』には描かれていない赤シャツと坊っちゃんの友情がつながっているような展開が、意外と、と言ってはいけないのかもしれないのですが、さわやかに思えました。

夏目漱石の小説の『坊っちゃん』の主人公の坊っちゃんというか、若い頃の坊っちゃん(弥尋さん)の場面も良かったように思います。少なかったのですが、『坊っちゃん』を扱うドラマには、その場面はやはり必要に思えました。

エンディングで流れていた、KOKIAさんの歌う「この街で」(作詞は新井満さん、作曲は新井満さんと三宮麻由子さん、編曲は天野正道さん)というテーマ曲も良かったです。私は知らなかったのですが、松山市で愛されている曲だそうです。

今年は夏目漱石の没後100年、小説『坊っちゃん』が世に出てから110年ということで、お正月のフジテレビでもスペシャルドラマ「坊っちゃん」が放送されていました。今回のNHKの愛媛発地域ドラマの「“くたばれ”坊っちゃん」も、『坊っちゃん』のドラマというくらいのことしか知らずに、面白いといいなというくらいの気持ちで何気なく見始めたのですが、見て良かったと思います。1時間の物語を最後まで楽しく見ることができました。


ところで、今日は第二次世界大戦や太平洋戦争の戦後71年の、沖縄の慰霊の日です。沖縄での組織的な戦闘が終わった日ということで、沖縄全戦没者追悼式が平和祈念公園で開かれます。私はNHKで放送される25分ほどの映像を見ることしかできないのですが、ちゃんと見ようと思います。夏目漱石の生きていた時代には日清戦争や日露戦争があり、夏目漱石さん自身も、日本政府が突き進む戦争を杞憂していたそうです。私は71年以上前の日本の戦争も、世界各地で起きている戦争や紛争も、直接体験したことはないのですが、たくさんの人が殺したり殺されたり傷つけたり傷つけられたりする戦争とは悲惨で不快なものだと思います。武力や脅しや威嚇などによるのではなく、対話や文化交流などによって平和な世の中が作られていくといいなと思います。
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