「百合子さんの絵本 ~陸軍武官・小野寺夫婦の戦争~」

NHKの終戦スペシャルドラマ「百合子さんの絵本 ~陸軍武官・小野寺夫婦の戦争~」を見ました。昨夜の9時から10時半まで放送されていたドラマです。

ドラマは、戦後の1977年(昭和52年)の、晩年の小野寺夫妻の場面から始まっていました。夫の小野寺信(まこと、香川照之さん)は、新聞社から何度も依頼されている、当時の軍人たちの座談会に参加するかどうかに悩んでいました。妻の百合子(薬師丸ひろ子さん)は、トーベ・ヤンソンの『ムーミンパパの思い出』などを訳す翻訳の仕事をしていたようで、当時の思い出を辿るように、1940年(昭和15年)の頃に遡っていました。

陸軍参謀本部の軍人の小野寺信さんは、東条英機内閣の統制派ではなかったためなのか、ある日、スウェーデンのストックホルムでの諜報活動を命じられました。中立国のスウェーデンでイギリスやアメリカやドイツやソ連の動きを探り、情報を日本の参謀本部に送るという仕事でした。しかし、信さんの情報は「弱腰」だとして参謀本部に信用されていないということでした。訪ねてきた軍人からそのことを教えられ、信さんの様子を見に行くことになった百合子さんは、4人の子供たちのまだ幼い末っ子の次男を連れて、昭和16年の1月、ストックホルムへ旅立ちました。

信さんは元気で積極的に諜報活動を行っていました。ドイツに占領されたポーランドから逃れてきたイワノフという協力者と情報のやり取りを行っていました。百合子さんは、信さんに頼まれて、鍵のかかる部屋で信さんがまとめた情報を参謀本部の制作したマニュアルに沿って暗号にして電信を送るという手伝いを始めることになりました。次男は、家政婦に預けていたのですが、信さんの話では、その家政婦も諜報部員だろうということでした。当時のストックホルムには、各国のスパイたちが集まっていたそうです。

百合子さんはストックホルムの街で、夏至祭りのために花で美しく飾った人々を見ていました。小野寺夫妻の送り続けた、日米開戦は避けるようにという趣旨の電報は、参謀本部に無視され続けていたようでした。昭和16年の12月8日、帝国海軍がハワイの真珠湾を攻撃すると、小野寺夫妻の生活は一変しました。連合国のスパイに見張られるようになり、次男は家政婦と散歩中にイワノフの知人の女性が射殺されるのを見てしまいました。

親戚の家に預けた子供たちから習字や手紙が送られてきて、国際電話で少しだけ話すことができた百合子さんは、子供たちのことを心配し、スウェーデンの絵本を潜水艦に乗せて日本へ送ってほしいと信さんに頼んだのですが、無理だと一蹴され、子供は二の次だとも言われて、私は軍人の娘だけれど今は軍人の妻になったことを後悔していると夫に訴えて嘆いていました。

昭和19年、日本は本格的な空襲に遭うようになりました。ストックホルムの小野寺家には、ヒトラーを尊敬していると話す不気味な駐ドイツ大使(吉田鋼太郎さん)も訪ねて来るようになりました。その大使も信さんの情報を「弱腰」と考えている人の一人のようでした。

昭和20年2月、信さんはストックホルムを出たイワノフの秘密の手紙から、「ヤルタ会議」が行われたという情報を得ました。それはドイツが降伏したらソ連が日本に侵攻するという密約でした。日本がアメリカとの仲裁をソ連に依頼しようとしているということを知っていた信さんは、百合子さんに頼んで、急いで参謀本部に「ヤルタ会議」に関する電信を送りました。しかし、その後参謀本部からは何の連絡もありませんでした。信さんと百合子さんが必死で日本へ送った緊急の電報は参謀本部の何者かに握りつぶされたのでした。

そして、8月6日、広島に原子爆弾が落とされ、9日には長崎に原子爆弾が落とされて敗戦が決定的になり、15日の終戦を迎えました。百合子さんと信さんは手紙を燃やし、翌年の昭和21年にスウェーデンから帰国したようでした。久里浜の港に到着すると、子供たちが百合子さんと次男を出迎えていました。信さんは、船を降りてすぐにアメリカ軍に捕まり、巣鴨プリズンに送られたそうです。

本や着替えを持って面会に訪れた百合子さんは、アメリカ人は自分のことを「閣下」と呼んでいる、閣下は朝からトイレ掃除をするのだと寂しそうに笑う信さんに、あなたは何度も戦争を止めようとした、あなたは本当の閣下だと言って励ましていました。

4か月ほどして、信さんは釈放されたようでした。戦後、生活と闘うことになった信さんは、なかなか仕事が見つからず、スウェーデンの知人を頼って貿易の仕事を始めたそうです。百合子さんが頼まれて絵本の翻訳をするようになったのはその仕事が少し軌道に乗り始めた頃だったということでした。そして、昭和52年になりました。

元軍人の座談会への参加を断り続けていた信さんに、百合子さんは、ある新聞記事を見せました。それは、戦後“政財界のご意見番”となった瀬野という人物のインタビュー記事だったのですが、その人は戦時中には参謀本部で諜報部員たちからの電報を読んでいたということでした。自分を英雄のように語るその記事を読んだ百合子さんは、このような人がいて、あなたのような人がいると話し、記事を読んだ信さんは、事実を話すために座談会への出席を決めました。

しかし、その会に参加していた元軍人たちは、当時のことを思い出話として楽しそうに話しているという感じでした。信さんは、戦争を止めようとした電信や「ヤルタ会議」の電信を握りつぶされたという話を思い切って話したのですが、参謀本部には大局を見ることできなかったのだろうと言うくらいで、情報を握りつぶした結果に原爆を落とされたことの責任を誰が取っているのかという信さんの質問には答えることができませんでしたし、誰の責任かを追求しようという雰囲気もそこにはありませんでした。

座談会に失望した信さんは、虚しい気持ちで百合子さんのもとへ帰っていました。それから百合子さんと二人でクラシックの、ベートーヴェンの「交響曲第九番」を聴くコンサートへ出かけていたのですが、それはスウェーデンにいた頃以来だったということで、二人は音楽を聴きながらそれぞれ戦時中や戦後の大変だった頃のことを思い出していました。

家の押し入れで、戦時中に子供たちに送ったスウェーデンの絵本を見つけた百合子さんは、そのことを信さんに話していました。そして、信さんと結婚したことを後悔していないと伝えた百合子さんは、二人で当時のことを記した本を書こうと信さんに提案していました。子供たちに戦時中のことを離してこなかったという信さんは、百合子さんといちょう並木を歩きながら、思い出話として子供たちに当時のことを少しずつ話していこうかなと思い始めていたようでした。

作(脚本)は池端俊策さん、音楽は千住明さん、演出は柳川強さんでした。ドラマの原案は、岡部伸さんの著書『消えたヤルタ密約緊急電―情報士官・小野寺信の孤独な戦い』だそうです。

予告編を見て、私もこのドラマを見るのを楽しみにしていたのですが、とても良かったです。

香川照之さんの演じる夫の信さんも、薬師丸ひろ子さんの演じる妻の百合子さんも良かったですし、物語の展開も、構成も、音楽も良かったです。

百合子さんが子供たちに送った絵本は、エルサ・ベスコフさんの『リーサの庭の花まつり』という絵本だそうです。

「百合子さんの絵本」というタイトルもとても良かったと思うのですが、その百合子さんの絵本は、百合子さんにとって、スウェーデンのストックホルムで夫と諜報活動をしていた頃の思い出や、戦時下を生き抜いた自分たちの象徴、戦時中にも失わなかった美しいものを求める心、正しい心の象徴、というようなものなのかなと思いました。

日本の参謀本部の軍人たちは、日本が負けていく事実を受け止めようとせず、自分たちの期待する情報以外は信じずに取り上げようともしなかったようで、参謀本部の場面はなかったのですが、結果的には、小野寺夫妻の送り続けていた日本のための重要な情報は参謀本部に無視され続けていたようでした。

百合子さんの絵本は、あるいは、諜報活動で得ていた情報が正しかったことが認められなかった自分たちの人生を肯定するものの象徴でもあったのかもしれません。

日本が敗戦し、百合子さんが手紙の原稿を燃やしている場面で流れていた、途中で「ボンボン」と子供の声で歌っている外国語の歌も、何だか良かったです。何の歌なのか私には分からなかったのですが、優しい雰囲気の曲で、その場面を見ていて少し悲しい気持ちになりました。「第九」の「歓喜の歌」がテーマ曲のように流れていたのも、良かったです。

ドラマに登場していた、小野寺夫妻の暮らしていた北欧のスウェーデンの風景もきれいでした。

小野寺信さんは、「諜報の神様」とも呼ばれていた方だそうです。祖父と父親が偉大な軍人だったらしい百合子さんは、佐佐木信綱(加藤剛さん)の和歌の会にも参加していました。実話を基にしたドラマということのようだったので、いつか小野寺夫妻についてのドキュメンタリー番組があるといいのかもしれないということも、少し思いました。

ともかく、とても良いドラマだったので、私も見ることができて良かったです。正しい行いをした人はそのことを後世に伝えなくてはいけないというような言葉がドラマの最初の方で言われていたのですが、確かにそうかもしれないと思いました。この物語は、ドラマの中の小野寺夫婦の伝えようとしたそのような正しさを伝えるものだったのかなとも思いました。
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