「氷の轍」

テレビ朝日のABC創立65周年記念スペシャルドラマ「氷の轍」を見ました。夜9時からの2時間と少しのドラマでした。

原作は、私は未読なのですが、桜木紫乃さんの小説『氷の轍』です。NHKの土曜ドラマ「スニッファー 嗅覚捜査官」の第3回とも重なっていたのですが、放送時間にはこちらのドラマを見てみることにしました。

主人公は、北海道警釧路中央本部の新人刑事で、生真面目でガードが固くて周囲と打ち解けない性格から「剣道の防具をつけた女」と呼ばれているという大門真由(柴咲コウさん)です。スケート場に通っていた真由さんは、珍しく、そこで出会った兵藤千恵子(宮本信子さん)という女性と親しく話をするようになっていて、お互いを「冬の友達」と呼び合っていました。真由さんの父親の史郎(塩見三省さん)は病気で入院をしていて、真由さんの母親は、10年前のすすき野の火災事故で亡くなったという、水商売の仕事をしていた女性だということでした。語りは、先輩刑事だった史郎さんから教えを受けたことがある、真由さんの教育係となった警部補の片桐周平(沢村一樹さん)でした。

真由さんと片桐さんは、釧路の雪原で発見された高齢男性の遺体の身元を調べ、睡眠薬とアルコールの成分が検出されたその男性が札幌で30年前に管理売春という罪で逮捕された前科のある加藤千吉(金子達さん)だということと、当時その捜査を担当していたのは史郎さんだということを知りました。病床の史郎さんによると、加藤さんは「人買い」と呼ばれていた人物でした。刑事課長の秋野豊(嶋田久作さん)は自殺の可能性を考えていたのですが、遺体の状況を考えた真由さんと片桐さんは殺人事件だと訴え、その方向で捜査をすることになりました。

その矢先、別の殺人事件が発生しました。札幌からレンタカーで釧路へ来たと思われる元タクシー運転手の滝川信夫(品川徹さん)が、釧路の港でブルーシートに包まれて浮いているのが発見されたのでした。滝川さんの借りた車のすぐ近くには、テレビにも出たことのある有名な社長の米澤小百合(余貴美子さん)が経営する「米澤水産」の工場がありました。その会社の窓から警察の捜査の様子を覗いていた小百合さんに気付いた真由さんと片桐さんは、小百合さんに訊き込みをし、小百合さんからは何も訊き出すことはできなかったのですが、その帰りに、その会社で清掃員として働く兵藤千恵子さんに遭遇しました。

滝川さんの車に治療薬を見つけた片桐さんは、滝川さんが真由さんの父親と同じ病気かも知れないと考えました。滝川さんのことを調べる真由さんと片桐さんは、治療を拒否して余命の短い状態になっていた滝川さんの札幌の一人暮らしの自宅へ向かいました。滝川さんの部屋にはたくさんの本が詰め込まれた本棚があり、真由さんは、北原白秋の詩集『白金之独楽』を手に取りました。レシートの挟まれていたページを開くと、そこには、「他と我」の「二人デ居タレドマダ淋シ、一人ニナッタラホ淋シ、シンジツ二人ハ遣瀬無シ、シンジツ一人ハ堪ヘガタシ」という詩がありました。

本には、「キャサリン様へ」と書かれていました。滝川さんがその本を買った古書店の店主によると、その本は、滝川さんが若い頃に好きな女性へ送ったもので、古書店を巡り巡って再び滝川さんのもとへ戻ったものだということでした。

真由さんと片桐さんは、「キャサリン」を調べるため、真由さんと片桐さんは、釧路から車で苫小牧の港へ向かい、フェリーに乗って八戸へ向かいました。八戸の警察官の案内でストリップ劇場を訪ね、キャサリンと名乗っていた女性を知っているかもしれないスナック「愛の店」のママで元ストリッパーの愛(緑魔子さん)に会いに行き、愛さんから、キャサリン(内田滋さん)と切符切りの滝川さんと、キャサリンの二人の娘と人買いの加藤さんにまつわる話を聞くことになりました。

そのような中、滝川さんを殺して遺棄したのは自分だと、凶器の包丁を持った千恵子さんが、釧路中央本部の真由さんに自首をしました。殺したのはあなたではないと言う真由さんに、千恵子さんは、殺したのは自分だと主張し続けました。しかし、滝川さんの札幌の部屋にあったビデオテープの中には、情報番組でインタビューを受ける米澤小百合さんの映像が残されていました。真由さんと片桐さんは、滝川さんを殺したのは小百合さんであると考えていました。

真由さんは、取調室の千恵子さんに、あなたは小百合さんの姉なのではないかと、殺された加藤さんと滝川さんと「キャサリン」とその娘たちのことを話し始めました。

一人娘の歩美(吉倉あおいさん)の結婚式に出席した後、会場に現れた刑事の片桐さんたちに従って警察署で任意の事情聴取を受けた小百合さんは、罪を認め、お金を要求した直後自分の身代わりに自首をした不思議な千恵子さんが、母親に捨てられ、加藤に売られて生き別れることになった自分の姉であることを知りました。

キャサリンの二人の娘たちを守ることができなかったことを後悔していた滝川さんは、その後、自分のタクシーに乗ってきた高齢男性が加藤であることに気付き、姉妹を売り飛ばした加藤を殺したようでした。小百合さんは、娘の結婚と出産を控えた今の暮らしを守るために、昔の自分を知っている滝川さんが急に現れたことを恐れるようになって殺してしまったようでした。千恵子さんは、社長の小百合さんが滝川さんを刺殺した現場に遭遇し、混乱する小百合さんを助けるために、死体遺棄の共犯者となり、水産加工会社の社長にまでなった妹の小百合さんを守るために、身代わりの自首をしたようでした。

真由さんが警察車両に乗る小百合さんの姿を見ていた千恵子さんの綱からそっと手を離し、雪の中、千恵子さんが「さっちゃん!」と呼びながら小百合さんを追いかけ、小百合さんが後部座席で振り返って「ちーねえちゃん!」と叫ぶ場面は、昔の姉妹の姿と重なっていて、悲しいのですが、とても良い場面でした。

最後は、待っていますと千恵子さんに話していた真由さんが、一人でスケートを滑る場面でした。氷の上にはスケート靴の刃に削られた線が残っていました。片桐さんの語りが、入院していた父親の大門史郎さんが1か月後に亡くなり、「大門真由は孤独になった」ことを伝えていました。

脚本は青木研次さん、音楽は稲本響さん、監督は瀧本智行さんでした。

何というか、映画のようなスペシャルドラマでした。

北海道や青森の雪景色とギターの音楽とがとてもよく合っていて、冬の冷たさや厳しさが伝わってくるように思えました。

真由さんと片桐さんが捜査に出かける時の雪景色の道路や航路が端折られずに描かれていたところも、良かったのだと思います。タイトルの「氷の轍(わだち)」というのは、雪や氷の上を走る線ということだけではなく、冷たく厳しい孤独な世界を生き抜いてきた千恵子さんや小百合さん、そして真由さんの人生を表すものでもあったのかなと思いました。

千恵子さんや小百合さんの子供時代、キャサリンさんがストリッパーとして活躍していた時代は、「安保闘争」のあった岸信介内閣、「所得倍増計画」を打ち立てた池田勇人内閣の時代でした。

それは、東京タワーが完成した頃の時代でもあり、今回のドラマは、例えば映画「ALWAYS 三丁目の夕日」で「光」として明るく輝かしく描かれていた昭和30年代の高度経済成長期の日本社会の「闇」の部分を描く作品でもあったのだと思います。

私は、昭和30年代の日本社会を直接には知らないのですが、その「ALWAYS」の映画のような、昔は良かった、という風に過去の時代の明るい部分を強調して描くタイプの作品よりは、今回の作品のように、暗い部分を描く作品のほうが好きなのだと思います。昔の推理小説などには(もしかしたら現代の推理小説でもそうなのかもしれないのですが)、社会の暗い部分が描かれているように思います。

「映画」と「2時間ドラマ」の違いが分からなくなるような、丁寧に作られた良いミステリー作品でした。重く暗い物語ではあったのですが、ギターの音(ギターの音だったように思うのですが、それで合っているでしょうか)が効果的に使われる、静かで筋の通った安定した展開もあって、途中で疲れたり眠くなったりすることなく、最後まで見ることができました。寂しい余韻残る終わり方も、良かったです。
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