映画「この世界の片隅に」

先日、映画「この世界の片隅に」を見に行きました。映画を見た後に気付いたのですが、11月12日に公開されたばかりの映画でした。

もともとは渋谷区の松濤美術館に「月―夜を彩る清けき光」という、月をテーマにした日本の掛け軸や屏風絵や浮世絵や漆の箱や鎧兜などの作品を展示した、日本人が昔から月を好きなことを伝える展覧会を見に行ったのですが(私としては特に歌川広重の「名所江戸百景 猿わか町よるの景」や源長常あるいは一宮長常の「月兎漕舟図」が良かったです。68年ぶりというスーパームーンを直接見ることはできませんでした)、展覧会を見た後、渋谷駅方面の帰り道を歩いていて、「この世界の片隅に」の映画のポスターを見かけました。

TBSラジオで流れていたCMを聴いたことがあって、何となく気になっていたアニメ映画でした。近くの映画館で見ることができると知り、時間があったということもあって、その「ユーロスペース」という映画館へ向かい、次の上映時間のチケットを買うことができました。

映画館へ行くこと自体久しぶりだった私は、「ユーロスペース」という映画館へも初めて行ったのですが、その映画館は、東急百貨店本店のBunkamuraザ・ミュージアムなどに入る1階の入口の前の郵便局なども見える少し広めの交差点の斜め向かいの、あまりきれいとは言えない坂道を上って少し歩いた左側にありました。前だけ見て歩いていると見逃してしまいそうな、本当にここなのかなと思ってしまうような場所にある白いビルの上の小さな映画館でした。

映画の開場時間前にはたくさんの人がロビーの椅子に座ったり壁に貼られた映画の解説などを見たりしながら待っていて、時間が来ると、扉を開けた係の方の指示に従って少しずつ中へ入りました。

大手の映画館は最近の指定席になっていることが多いように思うのですが、この映画館は自由席でした。小さな映画館ということもあって、スクリーンもそれほど大きくはなかったような気がします。私にはちょうど良い大きさであるように思えました。

上映時間が始まって館内が暗くなると、映画の宣伝の予告映像が流れ始めました。私は映画館で見る予告編と映画館の大きな音が少し苦手で、それで映画館へ行くのが苦手に思えるほどでもあるのですが、今回の映画館では、予告映像は長かったものの、音の大きさはそれほど気になりませんでした。

そうして、しばらくして、アニメ映画「この世界の片隅に」の本編が始まりました。

絵を描くのが大好きな優しくて少しぼーっとしたところのある少女・浦野すず(声・のんさん)は、1944年(昭和19年)2月、突然の縁談で広島市江波から軍港の街・呉の北條周作(声・細谷佳正さん)のもとに嫁ぎ、配給物資が少しずつ減らされていく中で、周作さんと周作さんの父親の円太郎(声・牛山茂さん)や母親の北條サン(声・新谷真弓さん)、元モダンガールの義姉の黒村径子(声・尾身美詞さん)と5歳の娘の晴美(声・稲葉菜月さん)という新しい家族と様々な工夫をしながら毎日を過ごしていたのですが、空襲警報の数も増えていた1945(昭和20年)年3月、呉は空を埋め尽くすほどの航空機による空襲にさらされ、大切なものを失いながら、あの夏を迎えることになるのでした。

その他の主な登場人物は、祖母の森田イト(声・京田尚子さん)、妹の浦野すみ(声・潘めぐみさん)、父親の浦野十郎(声・小山剛志さん)、母親の浦野キセノ(声・津田真澄さん)、小学校時代の幼馴染みで青葉の乗組員になった水原哲(声・小野大輔さん)、遊郭の白木リン(声・岩井七世さん)です。

原作は、私は未読なのですが、こうの史代さんの漫画『この世界の片隅に』です。脚本と監督は、片渕須直さんです。「マイマイ新子と千年の魔法」を作った方でもあるそうなのですが、私はその映画作品をまだ見たことがありません。

私は今回もまた、事前情報をほとんど得ないまま作品を見始めました。事前に知っていたのは、広島を舞台にした戦争の映画だということや、主人公のすずさんの声を演じている声優の方が女優の能年玲奈さんだった「のん」さんだということ、作品が漫画原作だということくらいでした。

そのため、映画が始まって、すずさんの声を聞いた時、のんさん(能年玲奈さん)の声だと思いました。その後も、のんさんの声だということを忘れることはできなかったのですが、それでも、すずさんの声を演じるのはのんさんしかいないと思えるほど、のんさんの声はすずさんによく合っていました。

公開中の映画なので、映画のことを詳しく描くことはしないようにしようと思うのですが、「この世界の片隅に」というアニメ映画は、本当に、とても良い映画でした。

戦争をテーマにしているのですが、暗い雰囲気の物語ではなく、当時のごく普通の市井の人々の日常を描く映画でもありました。

映画を見終わって、何が良かったのかを考えようとしたのですが、私にはそれを上手く伝えることができないような気がします。他の映画作品でもそうでしょうと言われてしまうかもしれないのですが、この映画はこの映画を見るという“体験”をしなければその良さが本当には分からない映画であるようにも思えました。

すずさんたちの日常が穏やかであればあるほど、突然の戦争の気配や空襲警報の音や爆撃や空襲、時限爆弾、そして新型爆弾(原子爆弾)は、怖過ぎました。すずさんたち、あるいは街の人たちが積み上げてきた暮らしが、「戦争」によって簡単に壊されていく場面を見ていて、恐怖や怒りや悔しさで複雑な気持ちになりました。

それでも、映画の中のすずさんたちには、戦争は生活と一体化していました。すずさんたちは、積乱雲の雷雲からの突然の大雨を受けるように、戦争の惨禍の入り込んでいる日常を受け止めていました。アメリカ軍の兵士の姿もそれと戦う日本軍の兵士のはっきりとした姿も描かれていないけれど、穏やかに普通の生活を送ることができるということの大切さが沁みるように伝わってきました。

すずさんのようにぼーっとしたところがあるから、というだけではなく、すずさんはこの映画を見ている私でもあるのだということを、映画を見ながら思うことができました。映画の物語の中のすずさん、あるいはすずさんたち、命が助かった人たち、助からなかった人たちは、もしかしたら映画を見ている私でもあったのかもしれないと思いました。

映画のチラシに「生きてるっていうだけで、涙があふれてくる」という声の主演ののんさんの言葉が書かれているのですが、本当にそうだなと思います。そのような映画でした。

当然のことなのかもしれませんが、この「この世界の片隅に」のアニメ映画を実際に見るまで、この映画がこれほどにも、楽しくて、悲しくて、優しい映画だとは思いませんでした。

水彩画のようなふんわりとした落ち着いた色合いの絵と、広島の言葉を話すすずさんの穏やかな雰囲気と、すずさんの夢と現実の境が混ざり合うような、あるいは夢と現実が入れ替わるような表現と、コトリンゴさんの静かで優しい歌声と音楽が映画の物語の世界に本当によく合っていて、見事でした。アニメでなければ描くことのできない作品だったのではないかなとも思います。

この映画は、「クラウドファンディング」という、この映画作品を作ってほしいと思った方々による寄付金で作られた映画でもあるそうで、エンドクレジットにはその方たちの名前がたくさん書かれていました。

映画の本編が終わった直後、エンドロールが始まると、それを見ずに席を立って映画館を出て行ってしまう方がいると思いますが、エンドロールにもすずさんたちの物語の続きが描かれているので、最後まで見たほうが良いように思います。完成度が高く、最後の最後まで、優しい映画でした。

映画の中に描かれていた、あのような時代が実際にあったことを、忘れてはいけないと思いました。

「この世界の片隅に」の本編が始まる前、スクリーンには今話題のアニメ映画「君の名は。」の予告編が流れていました。鮮やかな色の映画のようでした。私は「君の名は。」もまだテレビのCMでしか見たことのない状態なのですが、その映画の音楽(主題歌)が大きくて、突然流れてきた音に少し驚いてしまいました。

それにしても、「この世界の片隅に」の映画を見終えた私は、家に帰ってから、このアニメ映画の原作でもあるこうの史代さんの漫画『この世界の片隅に』が、2011年の8月に「終戦ドラマスペシャル」として実写化されていたことを知りました。知ったというか、私も当時見ていたはずなのですが、北川景子さん主演だったというそのスペシャルドラマのことを、完全に忘れていました。思い返してみたのですが、私はそのドラマを、おそらくあまり良く思うことができなかったのだろうと思います。

そのため、もしかしたらなのですが、「この世界の片隅に」というタイトルを聞いた時に少しでもそのドラマのことを思い出していたなら、今回のアニメ映画を見ようとは思わなかったかもしれません。あのドラマ版を好きな方もいるかもしれないので、あまりいろいろ言ってはいけないかもしれないとも思うのですが、私としては、忘れていて良かったです。

「ユーロスペース」という小さな映画館(有名な映画館のようでした)も良かったですし、映画「この世界の片隅に」を私も見ることができて、本当に良かったです。名作だと思います。
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