「描き続けた“くらし” 戦争中の庶民の記録」

昨夜、Eテレの「ETV特集」の「描き続けた“くらし” 戦争中の庶民の記録」を見ました。

冒頭に登場していた、昨年のアニメーション映画「この世界の片隅に」(とても良い映画でした。原作のこうの史代さんの漫画は未読です)の監督の片渕須直さんが見ていたのは、勝矢武男さんという方の描いた、敗戦までの3年間の戦時中の家族の日常を記した絵日記のようなスケッチ画でした。

勝矢武男さんには、時々病に伏していた妻の勝世さんと、元気な3人の男の子と2人の女の子がいました。勝矢家は7人家族で、東京の北区の辺りで暮らしていたそうです。

78歳だという三男の輝夫さんが当時のことを話していました。輝夫さんの家には、武男さんの描いた絵が飾られていたのですが、とても上手で驚きました。画家だったのでしょうか。私は勝矢武男さんのことを知りませんでした。

終戦から12年ほど経った昭和42年、雑誌「暮しの手帖」は「戦争中の暮しの記録募ります」と募集をかけ、翌年の夏に「戦争中の暮しの記録」の特集号を出版したそうです。番組のナレーションでは「ある出版社」と言っていて、なぜか「暮しの手帖社」だとは言わなかったのですが、その「暮しの手帖」の募集には1763通の応募があり、勝矢武男さんのスケッチもそこから世に出たということのようでした。

スケッチには、母親が元気になったことや、子供たちが相撲をして遊んだこと、野菜を買ったこと、お肉をすき焼きにしていっぺんに食べたこと、玄米を瓶に入れて白米に精米したこと、野草を食べたこと、楠公飯を作ったけれどおいしくなかったこと、ネズミがかじった飛行機の模型を長男が泣きそうになりながら作り直していたこと、みんなで防空壕を掘ったこと、その防空壕の中で子供たちが遊んでいたこと、長女が集団学童疎開へ行ったこと、勝世さんが長女を心配していたこと、疎開先で衰弱した長女を家に連れて帰ってきたこと、空襲を避けるために雨の入った防空壕にいなければいけなかったこと、昭和20年5月24日の夜の大空襲のこと、東京の街が焼け野原になったこと、家族で生き抜こうという思いなどが描かれていました。

佐賀県の田中仁吉さんという農家の方の日記も少し紹介されていました。田中さんは、生活は厳しかったそうなのですが、畑仕事が好きだったそうです。暮しの手帖社へ日記を送ったのは“百姓”の生活を残しておきたかったからなのではないかと、家族の方が話していました。

勝矢さんの家族は、空襲でも無事で、家族7人で揃って8月15日の終戦を迎えることができたそうです。その後、妻の勝世さんは77歳で亡くなり、夫の武男さんはその翌年に81歳で亡くなったのだそうです。そして、武男さんと勝世さんの子供たちは、長男の幸夫さん以外は、今でもご健在なのだそうです。

勝矢武男さんのスケッチのカラフルな絵と綴られていた文章が繊細で良かったということもあると思うのですが、とても良い特集でした。三男の輝夫さんが話していたように、確かにそのような時代があったという証拠であり、戦争をしてはいけないというメッセージが武男さんの絵には込められているように思いました。

戦況が悪化する前の、戦時中の普通の家族の普通の暮らしが絵には描かれていたのだと思います。勝矢さんの家族は大空襲の中にあっても助かりましたが、その一方で、勝矢家の家族のように暮らしていた別の家族の日常は、大空襲によって壊されてしまいました。

映画「この世界の片隅に」の主人公の広島の呉のすずさんも、絵を描くのが好きな人で、生きて終戦を迎えることができましたが、大切な家族の一人と共に右手を失ってしまい、原爆によって実家のある広島の街も破壊されてしまいました。

映画を見た時にも思ったことなのですが、武男さんの穏やかな絵の向こう側にある、ごく普通の日常の中に戦争の気配が少しずつ入り込んでくる感じを、怖く思いました。映画と同じように、武男さんの絵にも、戦争を直接批判するような言葉はないようでした。それもその「時代」ということなのかもしれませんが、批判がはっきりとしていない分、今の私の暮らしにも置き換えて見ることができるように思えて、何でもない、楽しかったりつまらなかったりする普通の日常生活が、戦争の本性である暴力によって突然破壊されて一変するということを、恐ろしく、悲しく思いました。

家族には様々な形があると思いますが、約72年前の家族の暮らしと今の家族の暮らしとに、それほど大きな違いはないのだろうと思います。戦争だから、という訳の分からない理由で壊されていいような暮らしはないです。

武男さんの絵や田中さんの日記などが残されていて良かったです。雑誌「暮しの手帖」が戦時中の庶民の暮らしを残しておこうという特集を組んでいて良かったです。ドラマを見た後に何気なく見始めたのですが、この特集を私も見ることができて良かったです。
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