「命売ります」最終回

BSジャパンの「連続ドラマJ」の「三島由紀夫 命売ります」の最終話(第10話)を見ました。

命を売る商売をしていた自分と関わった人たちが次々と死んでいくということへの失意の中、ビルの屋上から飛び降りようとして足がすくんでいた山田羽仁男(中村蒼さん)は、助手の高校生の井上薫(前田旺志郎さん)に突き飛ばされました。辛うじて縁にぶら下がった羽仁男さんは、母親の八重子(酒井若菜さん)を自殺で亡くした後、羽仁男のせいだと苦しんでいた薫さんの複雑な思いを初めて知りました。ぶら下がりながら、殺してくれ、と頼んだ羽仁男さんは、かっこつけるなよと言う薫さんに屋上に引き上げられました。

そこへ、最初の客・実業家の岸宗一郎(田中泯さん)の部下の鳴海啓(野間口徹さん)が拳銃を持って現れました。鳴海さんに憎しみの感情を焚き付けられたことを知った薫さんは、羽仁男さんを連れて逃げました。鳴海さんから逃げている途中、警察官に山田羽仁男かと声をかけられた羽仁男さんは、警察官を突き飛ばし、二人は今度は警察官に追われることになりました。

土手で段ボール箱に入れられて捨てられている黒い子犬を拾った羽仁男さんと薫さんは、喫茶店の店主の杏子(YOUさん)と常連客の宮本さん(田口浩正さん)を頼ることにしました。自分が周囲の人たちを不幸にしていると言った羽仁男さんは、人に興味のない羽仁男には人を幸せにすることも不幸にすることもできないと杏子さんに言われ、拾った命に責任を持ちなさいと叱られました。

喫茶店を訪ねてきた最初の客の宗一郎さんに、羽仁男の命を買った者として同類だと言われた薫さんが、羽仁男は変わろうとしていると言うと、宗一郎さんは、それでいいと答えました。一方、温かくて動いている子犬を土手に捨てることができなかった羽仁男さんは、薫さんと一緒に事務所で子犬を育てることにしました。

翌日、喫茶店で子犬の話をしていた羽仁男さんの前に、ひき逃げされた丸田雅夫の娘の歩美(南乃彩希さん)がナイフを持って現れました。歩美さんは、ずっと会いたかったお父さんにやっと会えたのに、お父さんが羽仁男の真似をしなければ殺されることはなかった、お父さんが死んだのは羽仁男のせいだと訴えていました。歩美さんの振り回した刃を右手で掴んだ羽仁男さんは、手のひらから血を流しながら、誰かを殺すのも自殺をするのも同じ自分勝手なことだと歩美さんに言いました。

薫さんと宮本さんと事務所に戻った羽仁男さんは、体調が悪そうだった子犬が床に倒れているのを見つけました。宮本さんが確認すると、子犬はすでに死んでいました。薫さんと二人で土手に子犬のお墓を作った羽仁男さんは、子犬の死に涙を流していました。薫さんは、母親が読んでくれたことがあるという『100万回生きたねこ』の話を羽仁男さんにしていました。羽仁男さんは、空腹になったら食べて眠くなったら寝るという風に生きていけばいいのだと、もう死にたいとは思っていないという気持ちを薫さんに話しました。

命は自分勝手に絶っていいようなものではないと悟った羽仁男さんは、一か月後、就職活動を始めていました。しかし、なかなか決まりませんでした。喫茶店ではみんなと話しながら時々笑うようにもなっていた羽仁男さんがまともに生き直そうとしていた矢先、事務所に戻ると、ソファに座って待っていた宗一郎さんから、命を懸けたゲームをしようと、ロシアンルーレットを提案されました。断れば部下の鳴海さんに殺されると知った羽仁男さんは、そのゲームを受けることにしました。末期癌なのだと打ち明けた宗一郎さんは、躊躇うことなく引き金を引き、拳銃を羽仁男さんに渡しました。羽仁男さんは、汗を流しながら引き金を引き、宗一郎さんからまた拳銃を受け取りました。羽仁男さんは、自分の命を守るために、そして、薫さんの命を守るために引き金を引きました。宗一郎さんは、死ぬことに怯える羽仁男さんの汗だくの顔を見ながら狂ったように笑い、拳銃を自分のこめかみに当てて引き金を引きました。銃弾は宗一郎さんの頭を打ち抜き、宗一郎さんは絶命しました。床に倒れた宗一郎さんの頭の下には大量の赤い血が流れ出していました。鳴海さんは、ゲームの終了を羽仁男さんに告げて事務所を後にしました。

脚本は小山正太さん、監督は金澤友也さんでした。

最後、土手で苦しんでいた羽仁男さんは、薫さんからの着信に出ました。電話の向こうの薫さんは、就職試験の結果が届いている、また不採用だったと、黙っている羽仁男さんに伝えていました。

この世に嫌気が差して死にたがっていた羽仁男さんは、死にたいという気持ちから解放され、普通に生きていきたいと思い始めていたのですが、その羽仁男さんを待っていたのは、普通には生きることができないという絶望的な生き地獄だったようでした。

厭世的な気持ちに一度なった人が、そこから抜け出すというか、厭世的な気持ちを自らなくして積極的に前向きに生き直すということは、可能なのでしょうか。私には、少し難しいように思えます。

ドラマの薫さんが羽仁男さんに話していた、『100万回生きたねこ』(作・佐野洋子さん)という有名な絵本を、私も読んだことがあるのですが、私はその前半の話が好きでした。小学校の時に図書館で読んだだけなのですが、主人公の猫の気持ちが私にもよく分かるように思えて、笑ってしまいました。そのため、後半の、主人公の黒い雄猫が白い雌猫を好きになって死ぬ話は、私には、ありきたりの退屈な話のようにも思えていました。

その絵本の中の主人公の猫が白猫の死の後に死んで二度と生き返らなかったのは、誰かを好きになって愛を知ったからとか、その愛する存在を死によって失って深く悲しみを知ったからとかではなく、生への執着心を深めたからなのではないかなと思います。飼い主を嫌って自殺を繰り返していた前半の頃の猫には、生への執着心がほとんどなかったような気がします(昔に一度読んだだけなので、もしかしたら間違っているかもしれません)。

今すぐに死にたいというわけではないけれども、生き続けたいというほどでもないという人は、どうすればいいのかなと思います。今の政府が計画している「人生100年」は、本当に幸福なことなのでしょうか。ドラマの中の羽仁男さんが、あの後、一体どのように生きていくことになるのかは分かりませんが、この世には居場所も目的もない、という風になってしまうのではないかなと、(ドラマの中のことなのですが)少し心配に思いました。居場所や目的は自分で作るものだという考え方があるのは知っていますが、どの能力がどの程度あるのかは、人それぞれです。ポジティブに生きている人、積極的にでも消極的にでも前向きに生きている人、生まれてきて良かったと心の底から思うことができる人は、やはりすごいと思います。

「命売ります」のオープニングの主題歌の歌詞の「何故生まれて、何故死に逝く」という問いは、「アンパンマン」のテーマ曲の「なんのためにうまれて、なにをしていきるのか」という問いにも通じるものがあるように思いますが、簡単に答えが出るような問いではないのだろうと思います。何かに一切疑問を持たない、反発心を持たないという幸せも、もしかしたら、あるのかもしれません。

ドラマの根元的な問いとは少し異なるかもしれませんが、佐賀県の九州電力玄海原子力発電所の3号機が約7年ぶりに再稼働したと報じられていたのですが、2011年3月11日以降に「安全神話」が崩壊したことを国民の大多数が知ったはずの原発の再稼働問題も、三権分立や民主主義や人権の根幹が揺らいでいると言われている公文書改竄問題も子供の教育への政治介入問題もまた、そういうことなのかもしれません。沖縄県の辺野古の海の埋め立て工事と米軍基地建設の報道も、なぜか減っているような気がします。

ドラマのオープニングの人間椅子の「命売ります」という曲と田中泯さんの舞踊の映像と、美輪明宏さんのナレーション(最終回では美輪さんの歌う「愛の讃歌」も流れていました)の独特な雰囲気も良かったです。

全10話の中では、私としては特に第2話の文学的な雰囲気が好きでした。BSジャパンではなくテレビ東京で放送したほうがもっと多くの人が見ることができるのではないかなとも思うのですが、最近は地上波の放送か衛星放送かにあまり差はないのかもしれないなとも思います。

弱っていた子犬と、羽仁男さんと同じような自殺志願者でもあった宗一郎さんが死んで、羽仁男さんは生き残るという結末でしたが、その中村蒼さんの羽仁男さんも、田中泯さんの宗一郎さんも、前田旺志郎さんの薫さんも良かったですし、最後まで無事に面白く見ることができました。
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