「若冲ミラクルワールド」第4回

NHKのBSプレミアムの「若冲ミラクルワールド」の第4回「黒の革命 水墨画の挑戦者」を見ました。全4回のシリーズだったので、昨日の放送が最終回でした。昨日は夜の8時からの放送だったので、7時半からの「美の壺」の日本のタイルの話から続けて録画しておいたものを見たのですが、今回もとても良かったです。

ナビゲーターの大野智さんは、京都に来ていて、細見美術館の和室で伊藤若冲の「群鶏図押絵貼図屏風」を直接見て感激して、鶏に動きがあってすごいとか完璧だとか言いながら見ていたのですが、少ししてそのすごさに驚いて笑ってしまうという感じでとても楽しそうで、水墨画はかっこいいと話していました。

若冲が描いた京都の鹿苑寺(金閣寺)の大書院の障壁画を私は直接見たことがないのですが、今その障壁画は相国寺の承天閣美術館に収められているようです。番組ではテレビ初公開というその若冲の障壁画を紹介していたのですが、とても斬新で美しい障壁画で、驚きました。

水墨画で描かれた大書院の障壁画50面は、狭屋の間の「竹図」、四の間の「菊鶏図」、「秋海棠図」、「双鶏図」、三の間の「月夜芭蕉図」、「芭蕉叭々鳥図」、二の間の「松鶴図」、一の間の「葡萄図」、「葡萄小禽図」でした。「月夜芭蕉図」と「葡萄小禽図」は床の間の壁に描かれ、他のものは襖絵でした。

当時中国から入ってきたばかりの秋海棠(シュウカイドウ)や芭蕉の葉など、異国の雰囲気のあるものが和室の障壁画として描かれるというのはとても珍しいことなのだそうです。

専門家の方によると、この作品群は「満月」に貫かれているということでした。「月夜芭蕉図」に描かれている満月の光が大書院の5部屋を照らしているのだそうです。竹の葉が短くて黒い逆三角形だということも、言われてみれば確かに不思議な描き方のように思えたのですが、『月光浴』の写真家の石川賢治さんの話しによると、月の光と考えるととても写実的な描き方をしているということでした。月の光は、太陽の光の46万5千分の1というとても弱い光で、その光に照らされたものは逆光になると黒いシルエットとして見えるのですが、番組で行っていた実験で照らされた竹の葉が若冲の「竹図」の竹の葉のように本当に黒い逆三角形に見えていたので驚きました。細長い葉の少し下がった先の部分だけが逆光になり、光の当たっているところは白く反射していました。

CGで大書院を再現していたのですが、月の光の影響を検証するために透かしていたのが分かりやすくて良かったです。葡萄の実の色の濃さが襖絵と床の間の絵で違っていたのも、「月夜芭蕉図」の満月の光が正面から当たっているか、裏側から当たっているかで描き分けられていたのだと分かり、本当にすごいなと思いました。「松鶴図」の鶴も満月を見上げていて、若冲が夜の世界で活動している鳥を描いたことは、満月の光は本当にありがたいものだということを表現したものだということでした。大書院の障壁画は、「月の光に祝福される生き物の世界」ということでした。全てのものに降り注ぐ月の光で、仏の慈悲を表したのだそうです。

細見美術館の館長さんに案内してもらっていた大野さんは、展示室の「花鳥図押絵貼図屏風」を見てまた感動していました。そして、筋目描きの技法で描かれている菊の花や、「虻に双鶏図」の鶏のふわっとした羽を見て、手触りが伝わってくるということを話していました。

水墨画家の藤原六間堂さんが若冲の筋目描きの技法を再現して見せてくれていたのですが、とても難しくてすぐに描けるものではないということでした。筋目描きの原理は、解説によると墨の粒子が紙の隙間に染み込んでいくことを利用したものだったのですが、若冲はこれを偶然発見したのでしょうか。若冲が筋目描きで描く時に使用していた紙は、和紙ではなく、中国の「宣紙」という紙でした。和紙よりも繊維が細く、目が詰まっているのだそうで、墨の染み方も和紙より遅く、和紙に付いた墨は同じ濃さで染みるのに対して、宣紙に付いた墨は次第に薄くなっていました。若冲は、この紙の特徴を活かし、筋目描きの技法を使って描いていたのですが、同じスピードと濃さで、イメージだけを頼りに、迷わずに一気に描かなくてはいけないそうで、それがとても難しいようです。私はまだ直接見たことがないのですが、紹介されていた「雨龍図」や「霊亀図」、「出山釈迦図」の技法を見て、凝っているなと思いました。

さらに、とても美しかったのは、「乗興舟(じょうきょうしゅう)」という版画作品でした。京都から大阪まで、淀川を舟で下る時に見える春の風景を描いた版画だそうです。私は見たことがなかったので、とても驚きました。上半分の空というか、背景が本当に真っ黒で、下半分の側に描かれた山や家や鳥などの風景は白く縁取られた金色のような色の作品で、とてもくっきりとしていて鮮やかでした。風景の部分が私には金色に見えたのですが、その部分が何の素材なのかの説明はなかったので、それについてはよく分かりませんでした。でも、最初に「乗興舟」を見た時に、真っ黒とグラデーションの細かい金色に見えたので、蒔絵のようだなとも思いました。本当に黒漆のような深い黒色でした。

若冲の復刻版木を使用して若冲版画を作っている方に話を聞いていたのですが、若冲の版画は「正面刷り」と呼ばれるもので、浮世絵のように木目の出ない技法なのだそうです。版木の表面に糊を塗って、その上に白い紙を置いて、彫ってある模様のところに沿ってへらで紙を押していました。それからタンポという綿を包んだ道具で墨を置いていくのですが、今の墨では若冲の頃のようにきれいな黒の色が出ないのだそうで、墨会社の人たちと協力して、当時のニカワの原料の鹿の皮と牛の皮と魚の皮を使い、どれが良いのか試していました。番組の中では、鹿のニカワの墨を使うとむらが少ないということ以上にはまだよく分からなかったようだったのですが、本物の当時の若冲の版画が残されているのなら、『動植綵絵』の絵の具の成分を分析した時のように、最新の機器を使ってその墨の成分を分析すれば良いのではないかとも思いました。

いろいろな野菜を「涅槃図」に見立てて描いた「果蔬涅槃図」を大野さんに紹介していた同志社大学の狩野博幸さんは、若冲には精神の自由がある、若冲の絵を見ていると精神が軽くなってくると楽しそうに話していました。若冲は枯れるということがないのだそうです。中央の白い大根がお釈迦様なのですが、大根はどこを切っても白いということで、昔から仏性を表しているのだそうです。一見すると、とてもかわいい絵なのですが、真面目な作品なのかもしれないと思いました。

1877年、若冲が73歳の時、天明の大火が起きて京都の大部分が焼かれてしまい、若冲の家も失われてしまったそうで、その後、大阪の西福寺に行ったそうです。西福寺には「仙人掌群鶏図」という襖絵があり、狩野博幸さんが見に来ていました。サボテンの下で鶏の親子が遊んでいる風景の絵でした。その隣の「蓮池図」を、狩野さんは晩年の若冲の寂しい心境を表したものだと以前は思っていたそうなのですが、最近、朽ちていく蓮の葉の後ろに伸びている純白のつぼみに注目し、生命力を感じさせる絵だと思うようになったそうです。「京都がんばろう」という意味かもしれないということでした。

点描画の灯籠がたくさん描かれている「石灯籠図屏風」も、「象と鯨図屏風」も不思議な作品だなと思います。でも、狩野さんが話していたように、85歳で亡くなるまで自由に絵を描き続けていて、ずっと枯れない人だったのだろうなと思いました。

最後に大野さんは、4回のシリーズで若冲の作品を見てきてより謎が深まった、知れば知るほどどんどん謎が増えていき、本当の若冲の正体、若冲の顔はどれなのか、より謎が深まると話していました。この4回をきっかけにまだ見ていない作品を見ようと思うと言った後、見ればまた若冲の謎が深まるのだろうと話していました。私にも本当に謎の人物のように思えます。鋭い観察眼を持っていたり、いろいろ技法を編み出したりしていたので、若冲はレオナルド・ダ・ヴィンチのようだなとも思いました。

先日の「徹子の部屋」の35周年記念スペシャルの中で、嵐の5人が即席の徹子の部屋に来ていた時にも、端に座っていた大野さんは徹子さんから静かにしていると言われていましたが、普段の番組ではあまり話をしていない雰囲気の大野さんが今回のNHKの番組の中ではとても楽しそうで、嬉しそうに若冲の絵をよく見ていて、大野さんの感動がよく伝わってきたことも楽しかったです。とても良いナビゲーターでした。大野さんと対談していた解説の先生たちも楽しそうに熱心に話をしていて、若冲がとても好きだという感じが伝わってきて良かったです。やはり本当に好きな方による解説は面白いのだと思いました。

第3回で、韓国の「紙織画」のことを知ることができたのも良かったです。紙織画というのは、絵を描いた竹の繊維の紙を数ミリの幅で横に切って、白い紙を間に入れて織物のように織っていく作品なのですが、全体的に白色がかり、少し立体的になるのが特徴だそうです。一度は衰退してしまっていたその紙織画を復活させている人がいるそうで、すごいなと思いました。

「若冲ミラクルワールド」の4回シリーズは丁寧な構成で、とても面白かったです。さすがはNHKだなと思いました。
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